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「太平記」稲村崎成干潟事(その5)

義貞の兵これを見て、「あはれ敵や」と罵りければ、栗生くりふ・篠塚・はた・矢部・堀口・由良・長浜を始めとして、大力の覚へ取つたる悪者あらものども、我先にかの武者と組んで勝負を決せんと、馬を進めてあひ近付く。両方名誉の大力どもが、人交ぜもせず軍する、あれ見よとののめきて、敵御方諸共に、難唾かたづを呑うで汗を流し、これを見物してぞ控へたる。懸かるところに島津馬より飛んで下り、兜を脱いで閑々しづしづと身繕ひをするほどに、何とするぞと見居たれば、をめをめと降参して、義貞の勢にぞくははりける。
貴賎上下きせんじやうげこれを見て、誉めつることばひるがへして、にくまぬ者もなかりけり。これを降人かうにんの始めとして、あるひは年来重恩の郎従らうじゆう、あるひは累代るゐたい奉公の家人けにんとも、しゆを棄てて降人になり、親を捨てて敵に付く、目も不被当有様なり。およそ源平を振るひ、互ひに天下を争はん事も、今日を限りとぞ見へたりける。




義貞(新田義貞)の兵はこれを見て、「敵が攻めて来たぞ」と叫ぶと、栗生・篠塚・畑・矢部・堀口・由良・長浜をはじめとして、大力の名を取る悪者([荒々しい者])どもは、我先にこの武者(島津時久ときひさ)と組んで勝負を決しようと、馬を進めて近付きました。両方名誉の大力どもが、人の助けも受けずに軍をしたので、あれを見よと声を上げて、敵味方ともに、固唾を呑んで汗を流し、じっとしたままこれを見物していました。そうこうするところに島津(時久)は馬から飛んで下りると、 兜を脱いで静かに身繕いを始めました、何をするのかと見れば、情けなくも降参して、義貞の勢に加わりました。貴賎上下の者はこれを見て、誉めた言葉に代えて、憎まぬ者はいませんでした。これを降人のはじめとして、年来重恩の郎従([家来])、累代奉公の家人であろうとも、主を捨てて降人になり、親を捨てて敵に付きました、目も当てられぬ有様でした。源平が威を振るい、互いに天下を争うことも、今日を限りと思われました。


続く


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by santalab | 2016-01-18 12:05 | 太平記 | Comments(0)

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