Santa Lab's Blog


「太平記」鎌倉兵火の事付長崎父子武勇の事(その1)

去るほどに、浜面はもおもての在家並び稲瀬いなせ河の東西に火を懸けたれば、折節をりふし浜風烈しく吹きいて、車輪の如くなるほのほ黒煙くろけぶりの中に飛び散つて、十町じつちよう二十町が外に燃え付く事、同時に二十にじふ余箇所なり。猛火みやうくわの下より源氏のつはもの乱れ入つて、度方とはうを失へる敵どもを、ここかしこに射伏せ切り臥せ、あるひは引つ組んで差し違へ、あるひは生け捕り分捕り様々なり。煙に迷へるをんな童部わらんべども、被追立て火の中堀の底とも不云、逃げたふれたる有様は、これやこの帝尺宮たいしやくきゆうの闘ひに、修羅の眷属ども天帝の為に被罰て、剣戟けんげきの上に倒れ伏し、阿鼻大城あびだいじやうの罪人が獄卒のしもとに被駆て、鉄湯てつたうの底に落ち入るらんも、かくやと被思知て、語るにことばも更になく、聞くにあはれを催して、皆泪にぞ咽びける。




やがて、浜面の在家並び稲瀬川(由比ヶ浜に注ぐ川)の東西に火を懸けました、ちょうど浜風が激しく吹いていたので、まるで車輪のような大きな炎が、黒煙の中に飛び散って、十町二十町外に燃え付いて、同時に二十余箇所に燃え移りました。猛火の下より源氏の兵が乱れ入り、途方に暮れる敵どもを、ここかしこに射伏せ切り臥せ、あるいは引つ組んで刺し違え、あるいは生け捕り分捕り(首を捕ること)様々でした。煙に迷える女・童部どもが、追い立てられて火の中堀の底ともいわず、逃げ倒れる有様は、あの帝尺宮の戦いで、修羅(阿修羅)の眷属([従者])どもが天帝の罰を受けて、剣戟([武器])の上に倒れ伏し、阿鼻大城([阿鼻地獄]=[八大地獄の第八])の罪人が獄卒の槍に懸けられて、鉄湯の底に落ち入るのも、このようなものかと思い知られて、語るに言葉もなく、聞くに哀れを催して、皆涙に咽びました。


続く


[PR]
by santalab | 2016-01-19 07:50 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」笠置軍事付陶山小見山...      「太平記」笠置軍事付陶山小見山... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
ひょんな事から、このブロ..
by yoshy at 18:50
すみません、日本語の起源..
by 春日 at 21:17
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧