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「太平記」笠置軍事付陶山小見山夜討事(その14)

ここに備中の国の住人ぢゆうにん陶山藤三義高すやまとうざうよしたか・小見山次郎なにがし、六波羅の催促に随つて、笠置かさぎの城の寄せ手にくははつて、河向かはむかひに陣を取つて居たりけるが、東国の大勢おほぜい既に近江に着きぬと聞こへければ、一族若党わかたうどもを集めてまうしけるは、「御辺たち如何が思ふぞや、このあひだ数日すじつの合戦に、石に被打、遠矢とほやに当たつて死ぬる者、幾千万と云ふ数を不知。これ皆差して為出しいだしたる事もなうて死しぬれば、骸骨がいこつ未だかわかざるに、名は先立ちて消え去りぬ。同じく死ぬる命を、人目に余るほどの軍一度して死したらば、名誉は千載に留まつて、恩賞は子孫の家に栄えん。つらつら平家の乱よりこの方、大剛だいがうの者とて名を古今に揚げたる者どもを案ずるに、いづれもそれほどの高名かうみやうとは不覚。先づ熊谷くまがへ・平山が一の谷の先懸けは、後陣ごぢん大勢おほぜいを憑みしゆゑなり。梶原平三かぢはらへいざうが二度の懸けは、源太を助けん為なり。佐々木の三郎が藤戸ふぢとを渡ししは、案内者あんないじやわざ、同じく四郎高綱たかつなが宇治川の先陣は、生食いけずきゆゑなり。これらをだに今の世まで語り伝へて、名を天下の人口じんこうに残すぞかし。いかにいはん日本国につほんごくの武士どもが集まつて、数日すじつ攻むれども落とし得ぬこの城を、我らが勢許りにて攻め落としたらんは、名は古今のあひだに双びなく、忠は万人のうへに可立。いざや殿ばら、今夜こよひの雨風の紛れに、城中じやうちゆうへ忍び入つて、一夜討ちして天下の人に目を覚まさせん」と云ひければ、五十ごじふ余人の一族若党わかたう、「もつとも可然」とぞ同じける。




ここに備中国の住人陶山藤三義高(陶山義高)・小見山次郎某は、六波羅の催促に従って、笠置城(現京都府相楽郡笠置町)の寄せ手に加わり、(木津川の)川向かいに陣を取っていましたが、東国の大勢がすでに近江(現滋賀県米原市)に着いたと聞こえたので、一族若党どもを集めて申すには、「お前たちはどう思う、この数日の合戦で、石に打たれ、遠矢に当たって死ぬ者は、幾千万という数を知らぬ。これ皆大した軍もせずに死んだ者よ、骸骨がまだ乾く前に、名はすでに消え去った。同じく死ぬ命ならば、人目に余るほどの軍を一度して死ねば、名誉は千載([千年])留まり、恩賞は子孫の家に栄えよう。平家の乱よりこの方、大剛の者として名を古今に上げた者どもを思い返せば、いずれもそれほどの高名とも思えぬ。まず熊谷(熊谷直実なほざね)・平山(平山季重すゑしげ)の一の谷(現兵庫県神戸市須磨区)の先駆けは、後陣の大勢を頼んでのことである。梶原平三(梶原景時かげとき)が二度駆けは、源太(梶原景季かげすゑ。梶原景時の嫡男)を助けるためであった。佐々木三郎(佐々木盛綱もりつな)が藤戸(現岡山県倉敷市)を渡ったのは、案内者がおったからぞ、同じく四郎高綱(佐々木高綱。佐々木盛綱の弟)の宇治川の先陣は、生食(名馬の名)に乗っておったからよ。これらの者でさえ今の世まで語り伝えて、名を天下の人口([人の噂])に残っておる。申すまでもないことだが日本国の武士どもが集まって、数日攻めても落とせぬこの城を、我らの勢だけで攻め落とせば、名は古今並びなく、忠は万人の上に立つであろう。どうだ殿たちよ、今夜の雨風の紛れに、城中へ忍び入り、一夜討ちして天下の人を驚かしてやろうではないか」と言えば、五十余人の一族若党も、「そうしよう」と同意しました。


続く


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by santalab | 2016-01-20 08:26 | 太平記 | Comments(0)

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