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「太平記」笠置軍事付陶山小見山夜討事(その16)

二町にちやう許りはとかうして登りつ、その上に一段高き所あり。屏風びやうぶを立てたる如くなる岩石がんぜき重なりて、古松こしよう枝を垂れ、蒼苔さうたい路滑らかなり。ここに至りて人皆如何んともすべきやうなくして、遥かに見上げて立つたりけるところに、陶山藤三すやまとうざう、岩の上をさらさらと走り上つて、くだんの差し縄をうへなる木の枝に打ち懸けて、岩の上よりろしたるに、跡なるつはものども各々これに取り付いて、第一の難所なんじよをば安々と皆上りてげり。それより上にはさまでの嶮岨けんそなかりければ、あるひはくずの根に取り付き、あるひは苔の上を爪立てて、二時計りに辛苦しんくして、屏のきはまで着いてけり。




二町ばかりを何とか登ると、その上に一段高い所がありました。屏風を立てたように岩石が重なり、古松は枝を垂れ、青苔が生い表面はつるつるでした。ここに至って人は皆どうしようもなくなり、遥かに見上げて立っていましたが、陶山藤三(陶山義高よしたか)は、岩の上をさらさらと走り上ると、あの差し縄([馬の轡にかけて、引いたりつないだりする縄])を上の木の枝に懸けて、岩の上から下ろしました、後に続く兵は各々これに取り付いて、一番の難所を易々と皆上りました。それより上はそこまでの嶮岨はありませんでしたので、葛の根に取り付き、苔の上を爪立てて、二時ばかり苦労しながら、塀の際まで着きました。


続く


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by santalab | 2016-01-20 23:21 | 太平記 | Comments(0)

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