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「太平記」笠置囚人死罪流刑の事付藤房卿の事(その9)

この頃中宮の御方に左衛門佐さゑものすけの局とて容色ようしよく世に勝れたる女房にようばうおはしましけり。去んぬる元享げんかうの秋の頃かとよ、主上北山殿に行幸ぎやうがう成つて、御賀のまひのありける時、堂下だうか立部りふはう袖をひるがへし、梨園りゑん弟子ていし曲を奏せしむ。繁絃急管はんげんきふくわんいづれも金玉きんぎよくこゑ玲瓏れいろうたり。この女房琵琶びはの役に被召、青海波せいがいはを弾ぜしに、間関かんくわんたるうぐひすの語りは花のもとになめらかに、幽咽いうえつせるいづみの流れは氷の底になやめり。適怨清和てきゑんせいくわ節に随つて移る。四絃しげん一声如裂帛。はらつてはまたかかぐ、一曲の清音せいいん梁上りやうじやうつばめ飛び、水中すゐちゆううををどる計りなり。




この頃中宮(第九十六代後醍醐天皇の中宮、西園寺禧子きし)の方に左衛門佐の局と申す見目麗しく世に勝れた女房がいました。去る元享の秋頃のことでしたか、主上(後醍醐天皇)が北山殿(西園寺公経きんつねが建てた別荘)に行幸になられて、御賀の舞がありましたが、堂下に立部伎(唐朝の舞踊らしい)の袖を翻し、梨園(唐の第六代玄宗皇帝は梨の木のある庭園で、みずから音楽・舞踊を教えたという)の弟子が曲を演奏しました。繁絃急管([音楽の調子が激しく速いこと])いずれも金玉のようにすばらしいものでした。この女房は琵琶の役として、青海波([雅楽の演目])を弾きましたが、間関([鳥がなだらかに鳴くさま])の鴬の語りは花の下をゆったり流れるよう、幽咽([かすかに水の流れる形容])の泉の流れは氷の底を這うようでした。適怨清和([あまりに優美で怨めしい程であり、清らかで調和がとれている様子])は節に移り変わりました。四絃([琵琶])の一声はまるで裂帛([ホトトギスの鳴き声])のようでした。撥をはじいてはまた撥ねる、その清音([澄んだ音色])は梁上に燕が飛び、水中に魚が跳り上がるようでした。


続く


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by santalab | 2016-01-22 08:33 | 太平記 | Comments(0)

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