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「太平記」三角入道謀反事(その6)

夜は既に明けぬ。木戸は皆開きたり。なじかは少しも可議擬、二十七人にじふしちにんの者ども、打ち物の鞘をはづして打ちて入る。城の本人佐和善四郎並びに郎等らうどう三人、腹巻取つて肩に投げ懸け、城戸口に下り合うて、一足も不引戦ひけるが、善四郎膝口切られて犬居いぬゐに伏せば、郎等三人前に立ち塞ぎ暫し支へて討ち死にす。その間に善四郎は己が役所に走り入り、火を懸けて腹掻き切つて死ににけり。その外四十しじふ余人ありける者どもは、一防ぎも不防青杉のじやうへ落ちて行く。熊狩りしつる兵どもは熊をも不追迹へも不帰、散り散りに成つてぞ落ち行きける。憑み切つたる鼓が崎のじやうを被落のみならず、善四郎忽ちに討たれにければ、残り二つの城も皆一日あつて落ちにけり。兵、伏野飛雁ひがん乱行と云ふ、兵書のことばを知らましかば、熊ゆゑに城をば落とされじと、世のあざけりに成りにけり。




夜はすでに明けました。木戸は皆開いていました。少しも躊躇せず、二十七人の者どもは、打ち物([太刀])の鞘を外して打ち入りました。城の本人佐和善四郎並びに郎等([家来])三人は、腹巻([鎧の一])を取って肩に投げ懸け、城戸口に下り合い、一足も引かず戦いましたが、善四郎は膝口を切られて犬居に伏せたので、郎等三人は前に立ち塞がりしばらく防いで討ち死にしました。その間に善四郎は己の役所([戦陣で、将士が本拠としている所])に走り入り、火を懸けて腹を掻き切って死にました。そのほかに四十余人いましたが、一防ぎも防がず青杉城に落ちて行きました。熊狩りをしていた兵どもは熊も追わず戻ることもなく、散り散りになって落ちて行きました。頼み切っていた鼓ケ崎城を落とされただけでなく、善四郎がたちまち討たれたので、残り二つの城も皆一日あって落ちました。兵が、野に伏せば飛ぶ雁は乱れ行くという、兵書の詞を知っておれば、熊のために城を落とされることはなかったと、世の嘲りとなりました。


続く


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by santalab | 2016-01-24 09:06 | 太平記 | Comments(0)

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