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「太平記」上杉畠山流罪死刑の事(その2)

焼かぬ塩津しほづを過ぎ行けば、思ひ越路こしぢの秋の風、音は愛発あらちの山越へて、浅茅あさぢ色付く野を行けば、末こそ知らね梓弓あづさゆみ敦賀つるがの津にも身を寄せて、袖にや浪の懸かるらん。厳しく守る武士もののふの、矢田野やたのはいづく鹿蒜かへる山、名をのみ聞いて甲斐もなし。治承の乱に籠もりけん、火打ひうちが城を見上ぐれば、蝸牛くわぎうつのの上三千界、石火の光の中一刹那いつせつな、哀れあだなる憂き世かなと、今さら驚くばかりなり。無常の虎の身を攻むる、上野うへのの原を過ぎ行けば、我ゆへさはがしき、月のねずみの根をかぶる、壁草いつまでぐさのいつまでか、露の命の懸かるべき。とても可消水の泡あわの流れ留まるところとて、江守えもりしやうにぞ着きにける。




焼かぬ塩津(現滋賀県長浜市)を過ぎ行けば、心は越路の秋の風のように物悲しく、音は愛発山(現滋賀・福井県境)を越えて、浅茅が色付く野を行けば、行く末は知りませんでしたが(梓弓は「末」にかかる枕詞)、敦賀の津(現福井県敦賀市)にも身を寄せて、袖は浪がかかるように濡れて、厳しく警固する武士が、矢田野(現石川県小松市矢田野)はどこだと鹿蒜山(現福井県南条郡南越前町)で、その名を聞いても都に帰れるはずもありませんでした。治承の乱で木曽義仲が籠もったという、火打城(現福井県南条郡南越前町)を見上げれば、蝸牛角上([蝸牛角上の争い]=[些細なことや、狭い世界でのつまらない争いのたとえ])は三千世界(宇宙)の、石火の光の中の一刹那([瞬間])のようなもの、ああなんと空しい憂き世であることかと、今さらに驚くばかりでした。無常の虎(死)の身を後悔しながら、上野原を過ぎ行けば、心はおだやかならず、月の鼠が藤の蔓(頼みの綱)をかじって、壁草(つる)はいつまで、露の命を繋ぐことでしょう。消えるべき水の泡がただ流れに留まっているばかりに、江守庄(現福井県福井市)に着きました。


続く


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by santalab | 2016-01-24 15:31 | 太平記 | Comments(0)

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