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「太平記」上杉畠山流罪死刑の事(その5)

八木光勝兼ねて近辺に触れまはり、「上杉・畠山の人々、流人の身として落ちて行く事あらば、無是非皆討ち止めよ」とまうす間、江守・浅生水あさふづ八代やしろしやう安居あこ波羅蜜はらみの辺に居たる溢れ者ども、太鼓を鳴らし鐘を撞きて、「落人あり討ち止めよ」と騒動さうどうす。上杉・畠山これに驚きて、一足も前へ落ち延びんと倒れふためきて、足羽あすはの渡へ行き着きたれば、川の橋を引き落として、足羽・藤島ふぢしまの者ども、川向かはむかふに楯を一面に突き並べたり。さらば跡へ帰つて、八木をこそ頼まめと憂かりし江守へ立ち帰れば、また浅生水の橋を跳ねはづして、跡にも敵満ち満ちたり。ただ疲れの鳥の犬と鷹とに攻めらるらんも、かくやと思ひ知られたり。これまでも主の先途を見果てんと、付き従ひたりけ若党わかたう十三人じふさんにん、主の自害を勧めん為、押し肌脱いで皆一度に腹をぞ切つたりける。畠山大蔵おほくら少輔せうも続いて腹掻き切り、その刀を引き抜いて、上杉伊豆いづかみの前に投げ遣り、「御腰刀はちと寸延びて見へ候ふ、これにて御自害候へ」と云ひも果てず、うつ伏しに成つて倒れにけり。




八木光勝はかねて近辺に触れ回り、「上杉(上杉重能しげよし)・畠山(畠山直宗ただむね)の人々が、流人の身として落ちて行くことがあれば、問答無用で皆討ち止めよ」と申していたので、江守・浅生水あさふづ八代やしろしやう安居あこ波羅蜜はらみの辺に居たる溢れ者ども、太鼓を鳴らし鐘を撞いて、「落人がいるぞ討ち止めよ」と騒ぎました。上杉(重能)・畠山(直宗)はこれに驚いて、一足でも先へ落ち延びようとあわてふためいて、足羽の渡(現福井県福井市)へ行き着けば、川の橋は引き落とされて、足羽・藤島(現福井県福井市)の者どもが、川向こうに楯を一面に突き並べていました。ならば後ろに帰って、八木(光勝)を頼ろうと江守(現福井県福井市)へ戻れば、また浅生水の橋は外されて、後にも敵が満ち満ちていました。ただ疲れた鳥が犬と鷹に攻めらるのも、このようなものかと思い知られるのでした。これまで主の先途を見届けようと、従い付いていた若党([若い侍])十三人は、主の自害を勧めるために、押し肌脱いで皆一度に腹を切りました。畠山大蔵少輔(直宗)も続いて腹を掻き切り、その刀を引き抜いて、上杉伊豆守(重能)の前に投げて、「腰刀は少し寸が長いようです、これで自害なさいませ」と言いも果てず、うつ伏して倒れました。


続く


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by santalab | 2016-01-24 15:46 | 太平記 | Comments(0)

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