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「太平記」備後三郎高徳事付呉越軍の事(その3)

そもそもこの詩の心は、昔異朝いてう呉越ごゑつとて並べる二つの国あり。この両国りやうごくの諸侯皆王道わうだうを不行、覇業はげふを務めとしける間、呉は越を討つて取らんとし、越は呉を亡して合はせんとす。かくの如く相争あひあらそふ事こと及累年。呉越かたみに勝負をへしかば、親の敵となり、子のあだと成つてともに天を戴く事を恥づ。しうすゑの世に当たつて、呉国のあるじをば呉王ごわう夫差ふさと云ひ、ゑつの国の主あるじをば越王ゑつわう勾践こうせんとぞまうしける。ある時この越王范蠡はんれいと云ふ大臣を召してのたまひけるは、「呉はこれ父祖の敵なり。我これを不討、いたづらに送年事、嘲りを天下の人に取るのみにあらず。兼ねては父祖のかばね九泉きうせんの苔の下にはづかしむる恨みあり。しかれば我今国のつはものを召し集めて、みづから呉国へ打ち越え、呉王夫差を亡ぼして父祖の恨みを散ぜんと思ふなり。なんぢは暫く留此国可守社稷」とのたまひければ、范蠡諌め申しけるは、「臣密かに事の子細を計るに、今越の力を以つて呉を亡さん事はすこぶる以つて可難る。そのゆゑは先づ両国のつはものを数ふるに呉は二十万騎にじふまんぎ越はわづかに十万騎なり。まことに以小を、大に不敵、これ呉を難亡その一つなり。次には以時計るに、春夏はやうの時にて忠賞ちゆうしやうを行ひ秋冬はいんの時にて刑罰をもつぱらにす。時今春の初めなり。これ征伐を可致時にあらず。これ呉を難滅その二つなり。次に賢人所帰すなはちその国強し、臣聞く呉王夫差の臣下に伍子胥ごししよと云ふ者あり。智深うして人をなつけ、おもんばかり遠くしてしゆを諌む。かれ呉国にあらんほどは呉を亡ぼす事可難。これそのつなり。麒麟は角に肉あつてたけき形を不顕、潛竜せんりよう三冬さんとうちつして一陽来復いちやうらうふくの天を待つ。君呉越ごゑつを合はせられ、中国に臨んで南面にして孤称こしようせんとならば、しばらく伏兵隠武、待時給ふべし」とまうしければ、




そもそもこの詩の意味するところですが、昔異朝(中国)に呉越(中国春秋時代にあった国)という相対する二つの国がありました。この両国の諸侯は皆王道([政治])をすることなく、覇業([戦い])ばかりしていたので、呉は越を討って国を奪おうと、越は呉を亡ぼして国を合わせようと思っていました。このように領国は争って久しくなりました。呉越は互いに勝ったり負けたりでしたので、親の敵となり、この仇となってともに同じ世界にいることを恥ずかしく思っていました。周(春秋時代の国)の勢いが衰えて(春秋時代になります)、呉国の王を呉王夫差(呉の第七代、最後の王)といい、越国の王を越王勾践といいました。ある時越国(勾践)は范蠡(越の政治家、軍人)という大臣を呼んで申すには、「呉は父祖(允常いんじよう)の敵である。わたしは呉を討たないまま、いたずらに年を送ったが、嘲りを天下の者から受けるばかりではない。父祖の屍を九泉([墓場])の苔の下に辱め恨まれることになろう。ならばわたしは国の兵を集めて、自ら呉国へ打ち越え、呉王夫差を亡ぼして父祖の恨みを晴らそうと思うのだ。お主がしばらくの間社稷([国家])を守れ」と申したので、范蠡はこれを諌めて申すには、「わたしが思うところ、今の越の力をもって呉を亡ぼすことはできません。その訳はまず両国の兵を数えるに呉の二十万騎に対して越はわずか十万騎です。小をもって、大を敵にすることこそ、呉を亡ぼすことができない理由の第一です。その次に時ですが、春夏は陽の時ですから忠賞を行い秋冬は陰ですれば刑罰のときです。時は今春の初めです。征伐を行う時ではありません。これが呉を亡ぼせない第二の理由です。次に賢人がいる国は強いものです、わたしが聞くに呉王夫差の臣下に伍子胥(春秋時代の楚の武人)という者がいます。智は広く人柄もよく、思慮深くして主(夫差)を諌めるほどです。伍子胥が呉国にいるかぎり呉を亡ぼすことは難しいでしょう。これが三つ目の理由です。麒麟は角が肉で覆われてその荒々しい形を見せません、潛竜は三冬([初冬・仲冬・晩冬の三箇月])は籠もり居て一陽来復([冬が去り春が来ること。新年が来ること])の時を待つものです。君(勾践)が呉越を統一し、中国を見据えて南方の孤称([帝王の位につくこと])となりたいのであれば、しばらく出兵せずに武力を温存し、時を待つべきです」と申しました、


続く


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by santalab | 2016-01-27 23:29 | 太平記 | Comments(0)

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