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「太平記」塩飽入道自害の事(その2)

そのおとと塩飽しあく四郎これを見て、続いて腹を切らんとしけるを、父の入道おほきに諌めて、「暫く我を先立てて、順次の孝をもつぱらにし、その後自害せよ」とまうしければ、塩飽四郎抜いたる刀ををさめて、父の入道が前に畏つてぞさふらひける。入道これを見てこころよげに打ち笑ひ、閑々しづしづと中門に曲椂きよくろくを飾らせて、そのうへ結跏趺座けつかふざし、すずり取り寄せて自ら筆を染め、辞世のじゆをぞ書きたりける。

提持吹毛 截断虚空
大火聚裡たいくわじゆり 一道清風いちだうのせいふう

と書いて、叉手しやすして首を延べて、子息四郎に、「それ討て」と下知げぢしければ、大膚脱おほはだぬぎに成つて、父の首を打ち落として、その太刀を取りなほして、鐔本つばもとまで己れが腹に突き貫いて、うつ伏し様にぞ臥したりける。郎等らうどう三人これを見て走り寄り、同じ太刀に被貫て、くしに指したる魚肉の如くかうべを連ねて臥したりける。




その弟塩飽四郎(塩飽忠時ただとき)はこれを見て、続いて腹を切ろうとするのを、父の入道(塩飽聖遠しやうゑん)はたいそう諌めて、「しばらく待ちこのわしを先立てて、順次の孝を致して、その後自害せよ」と申せば、塩飽四郎は抜いた刀を収めて、父の入道の御前に畏まりました。入道はこれを見て満足げに微笑んで、閑々と中門に曲椂([法会の際などに僧が用いる椅子])を備えさせると、上に結跏趺座([両足を互いの太ももの上に乗せる座り方])し、硯を取り寄せて自ら筆を染め、辞世の頌を書きました。

携えた吹毛([よく切れる剣])で、この世の命を断ち切ろうではないか。大火が町全体を包んでおるが、今は一筋の清風が吹くような心境ぞ。

と書いて、叉手([腕を組むこと])して首を延べて、子息四郎に、「それ討て」と命じると、四郎は大膚脱ぎになって、父の首を打ち落とすと、その太刀を取り直して、鐔本まで己れの腹に突き貫いて、うつ伏し様に臥しました。郎等([家来])三人はこれを見て走り寄り、同じ太刀に貫かれて、串に刺した魚のように頭を連ねて臥しました。


続く


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by santalab | 2016-01-30 08:44 | 太平記 | Comments(0)

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