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「太平記」新田左兵衛佐義興自害事(その6)

かやうに朝夕宮仕ひのらうを積み昼夜無二の心ざしをあらはして、半年ばかりになりにければ、佐殿今は何事に付けても心を置き給はず、謀反の計略、与力の人数、一事も残さず、心底しんていを尽くして知らされけるこそ浅ましけれ。九月十三夜は暮天ぼてん雲晴れて月も名にふ夜を顕はしぬと見へければ、今夜明月のくわいに事を寄せて佐殿を我がたちへ入れ奉り、酒宴のみぎりにて討ち奉らんと議して、無二の一族若党わかたう三百余人もよほし集め、我が館のかたはらにぞ籠め置きける。日暮れければ竹沢急ぎ佐殿に参つて、「今夜は明月の夜にて候へば、恐れながらわたくしの茅屋ばうをくへ御入り候ひて、草深き庭の月をも御覧候へかし。御内の人々をも慰め申し候はん為に、白拍子ども少々召し寄せて候ふ」と申しければ、「興ある遊びありぬ」と面々に皆悦びて、やがて馬に鞍置かせ、郎従ども召し集めて、すでに打ち出でんとし給ひけるところに、少将の御局よりとて佐殿へ御消息ごせうそくあり。開いて見給へば、「過ぎし夜の御事を悪しき様なる夢に見参らせて候ひつるを、夢説きに問ひて候へば、重き御慎しみにて候ふ。七日が間は門の内を御出であるべからずと申し候ふなり。御心得候ふべし」とぞ申されたりける。




こうして竹沢は朝夕宮仕えの労を積み昼夜無二の心ざしを顕して、半年ばかりになれば、佐殿(新田義興よしおき。新田義貞の次男)は何事に付けても心を置くことはありませんでした、謀反の計略、与力の人数、一事も残さず、心底を尽くして知らせることこそ嘆かわしいことでした。九月十三夜は暮天の雲が晴れて月もその名にふさわしく見えたので、この夜明月の会に事寄せて佐殿を竹沢の館に呼んで、酒宴の最中に討とうと示し合わせて、無二の一族若党三百余人を呼び集め、我が館の傍らに隠し置きました。日が暮れると竹沢は急ぎ佐殿の許に参って、「今夜は明月の夜を開きたく、恐れながらわたくしの茅屋へお越しいただき、草深き庭の月をご覧くださいませ。身内の人々を慰め申すために、白拍子([平安末期から鎌倉時代にかけて流行した歌舞。また、それを演じる遊女])どもを少々呼んでございます」と申せば、「おもしろい遊びではないか」と面々に皆よろこんで、やがて馬に鞍を置き、郎従([家来])どもを呼び集めて、すでに出ようとするところに、少将局よりと申して佐殿に消息([文])がありました。開いて見れば、「昨夜の悪い夢を見ましたので、夢説きに訊ねてみますと、重き慎しみでございます。七日の間は門の内をお出でになりませんようにと申しました。用心されますように」と書いてありました。


続く


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by santalab | 2016-01-31 09:43 | 太平記 | Comments(0)

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