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「太平記」新田左兵衛佐義興自害事(その11)

さるほどに水船に涌き入つて腰中こしなかばかりになりける時、の弾正、兵衛ひやうゑすけ殿を抱き奉て、ちうに差し上げたれば、佐殿、「安からぬものかな。日本一の不道人ふたうじんどもにたばかられつる事よ。七生しちしやうまでなんぢらが為に恨みを報ずべきものを」と大きに怒つて腰の刀を抜き、左の脇より右のあばら骨まで掻きまはし掻き回し、二刀ふたかたなまで切り給ふ。井の弾正はらわたを引つ切つて河中へかはと投げ入れ、己が喉笛のどぶえ二所ふたところ挿し切つて、みづか髪束かうづかを掴み、己が首を後ろへり付くる音、二町にちやうばかりぞ聞こへける。世良田右馬の助と大島周防すはうかみとは、二人ににん刀を柄口つかぐちまで突き違へて、引つ組んで河へ飛び入る。由良兵庫ひやうごの助・同じく新左衛門しんざゑもんは舟の艫舳ともへに立ち上がり、刀を逆手さかてに取り直して、互ひに己が首を掻き落とす。土肥とひ三郎左衛門さぶらうざゑもん南瀬口みなせくち六郎ろくらう・市河五郎三人は、各々袴の腰引き千切りて裸になり、太刀を口へくわへて、河中に飛び入りけるが、水の底をくぐりて向かふの岸へ駆け上がり、敵三百騎の中へ走り入り、半時はんじ計り斬り合ひけるが、敵五人討ち取り十三人に手負ほせて、同じ枕に討たれにけり。




やがて水が舟に入って腰中ほどになったので、井弾正は、兵衛佐殿(新田義興よしおき。新田義貞の次男)を抱き上げて、宙に差し上げると、佐殿は、「信用ならぬものよ。日本一の不道人どもに騙されるとは。七生までお前たちのために恨んでやるぞ」とたいそう怒って腰刀を抜き、左脇より右のあばら骨まで掻き回し掻き回し、二刀まで切りました。井弾正は腸を引き千切ると川中へ投げ入れ、己の喉笛を二所刺し切って、自ら髪を掴むと、首を後ろへ折りましたがその音は、二町ばかりも聞こえました。世良田右馬助(世良田義周よしちか)と大島周防守は、二人刀を柄口まで突き違えて、引っ組んで川に飛び込みました。由良兵庫助・同じく新左衛門は舟の艫舳([舟の終端部と先端部])に立つと、刀を逆手に取り直して、互いに己の首を掻き落としました。土肥三郎左衛門(土肥義昌?)・南瀬口六郎・市河五郎(市川忠光?)三人は、各々袴の腰紐を引き千切って裸になり、太刀を口へ咥えて、川中に飛び入り、水底を潜って向こう岸に駆け上がると、敵三百騎の中へ走り入り、半時ばかり斬り合い、敵五人を討ち取り十三人に手負わせて、同じ枕に討たれました。


続く


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by santalab | 2016-02-03 07:55 | 太平記 | Comments(0)

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