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「太平記」亀寿殿令落信濃事付左近の大夫偽落奥州事(その1)

ここに相摸入道にふだう殿の舎弟四郎左近の大夫入道の方にさふらひける諏方すは左馬の助入道が子息、諏訪三郎盛高もりたかは、数度すどの戦ひに郎等らうどう皆討たれぬ。ただ主従しゆうじゆう二騎に成つて、左近の大夫入道の宿所に来たつてまうしけるは、「鎌倉中かまくらぢゆうの合戦、今はこれまでと思えて候ふ間、最後の御伴仕り候はん為に参つて候ふ。早や思ひ召し切らせ給へ」と進め申しければ、入道あたりの人を退けさせて、潛かに盛高が耳にのたまひけるは、「この乱不量出で来て、当家たうけすでに滅亡めつばうしぬる事更に他なし。ただ相摸入道にふだう殿の御振る舞ひ人望にも背き神慮にも違ひたりしゆゑなり。ただし天たとひ驕りをにくてるを欠くとも、数代すだい積善しやくぜんの余慶家に尽きずば、この子孫の中に絶えたるを継ぎ廃れたるを興こす者なからんや。昔せい襄公じやうこう無道ぶだうなりしかば、斉の国可亡を見て、その臣に鮑叔牙はうしゆくがと云ひける者、襄公の子小伯せうはくを取つて他国へ落ちてげり。その間に襄公果たして公孫無智こうそんぶちに被亡、斉の国を失へり。その時に鮑叔牙小伯を取り立てて、斉の国へ推し寄せ、公孫無智を討つ事を得て遂に再び斉の国を保たせける。斉の桓公くわんこうはこれなり。されば於我深く存ずる子細あれば、無左右自害する事不可有候。可遁ば再び会稽くわいけいの恥を雪めばやと思ふなり。御辺もよくよく遠慮ゑんりよを廻らして、いかなる方にも隠れ忍ぶか、不然ば降人に成つて命を継いで、をひにてある亀寿を隠し置いて、時至りぬと見ん時再び大軍を起こして素懐そくわいを可被遂。兄の万寿をば五大院ごだいゐんの右衛門に申し付けたれば、心安く思ゆるなり」とのたまへば、




ここに相摸入道殿(鎌倉幕府第十四代執権、北条高時たかとき)の弟四郎左近大夫入道(北条泰家やすいへ)の方に仕える諏方左馬助入道(諏訪直性じきしよう)の子息、諏訪三郎盛高(諏訪盛高)は、数度の戦いで郎等([家来])は皆討たれました。ただ主従二騎になって左近大夫入道(北条泰家)の宿所を訪ねて申すには、「鎌倉中の合戦、今はこれまでと思われます、最後のお伴を仕るために参りました。早く覚悟をお決めになられますよう」と勧め申せば、入道はあたりの人を退けさせて、密かに盛高の耳にささやいて、「この乱が計らずも出て来て、当家が滅亡することは間違いない。ただ相摸入道殿(北条高時)の振る舞いが人望に背き神慮にも背いたからである。ただし天がたとえ驕りを憎み月が満ちるを欠くとも、数代積善の余慶家に尽きなくば、子孫の中に絶えたるを継ぎ廃れたるを興こす者がおらぬとも限らぬ。昔斉の襄公(斉の第十四代君主)は無道であった、斉の国が亡ぶのを見て、その臣に鮑叔牙(鮑叔)と言う者が、襄公(正しくは第十三代君主、釐公きこう)の子小白を連れて他国に逃げたのだ。その間に襄公は公孫無知(斉の第十五代君主)に亡ぼされ(小白が逃げたのは、襄公が公孫無知によって殺害された後のことらしい)、斉国を失った。その時に鮑叔牙は小白を取り立てて、斉の国へ押し寄せ、公孫無智を討って(公孫無智は臣下によって暗殺されたらしい)再び斉国の君主となったのだ(斉の第十六代君主、桓公かんこう)。斉の桓公のことよ。なれば我も深く思うところあれば、軽はずみに自害などすまい。遁れることができるならば再び会稽の恥を雪ごうと思うておるのだ。お主もよくよく考えて、いかなる方にも隠れ忍ぶか、もしくは降人となり命を継いで、甥である亀寿を隠し置いて、時が至ったと思えば再び大軍を起こして素懐を遂げるべし。兄の万寿は五大院右衛門(五大院宗繁むねしげ)に申し付けた、これで安心よ」と申しました、


続く


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by santalab | 2016-02-04 07:37 | 太平記 | Comments(0)

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