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「太平記」亀寿殿令落信濃事付左近の大夫偽落奥州事(その3)

盛高もりたかこの事ありのままにまうして、御心をも慰め奉らばやとは思ひけれども、女性によしやうははかなきものなれば、後にももし人に洩らし給ふ事もやと思ひかへして、泪のうちに申しけるは、「この世の中今はさてとこそ思え候へ。御一門太略御自害おんじがい候ふなり。大殿計りこそ未だ葛西谷かさいのやつに御座候へ。公達きんだちを一目御覧じ候ひて、御腹を可被召とおほせ候ふ間、御迎ひの為にまゐりて候ふ」と申しければ、御局嬉し気におはしましつる御気色ごきしよく、しほしほと成らせ給ひて、「万寿をば宗繁むねしげに預けつれば心安し、構へてこの子をもよくよく隠してくれよ」と仰せも敢へず、御泪に咽ばせ給ひしかば、盛高もりたか岩木いはきならねば、心計りは悲しけれども、心を強く持つて申しけるは、「万寿御料ごれうをも五大院ごだいゐんの右衛門宗繁が具足しまゐらせ候ひつるを、敵見付けて追つ懸け進らせ候ひしかば、小町口の在家に走り入つて、若子わかごをば指し殺し進らせ、我が身も腹切つて焼け死に候ひつるなり。あの若御わかごも今日この世の御名残り、これを限りと思し召し候へ。とても隠れあるまじきものゆゑに、狩場のきじの草隠れたる有様にて、敵に捜し出だされて、をさな御屍おんかばねに、一家いつけの御名を失はれん事口惜くちをしく候ふ。それよりは大殿おほとのの御手に懸けられ給ひて冥途までも御伴申させ給ひたらんこそ、生々世々しやうじやうせぜの忠孝にてござ候はん。く疾く入り進らせ給へ」と進めければ、




盛高(諏訪盛高)はありのまま申して、慰めようと思いましたが、女性は頼りにならないものなれば、後にもし人に洩らすこともあろうかと思い返して、涙の内に申すには、「この世の中は今を限りと思われます。(北条)ご一門はほとんどご自害されました。大殿(鎌倉幕府第十四代執権、北条高時たかとき)ばかりがまだ葛西谷におられます。君達を一目ご覧になられて、腹を召さんと申されましたので、お迎えに参りました」と申せば、局(二位局)は嬉しげな顔を、たちまち涙に変えて、「万寿(北条邦時くにとき。北条高時の嫡男)は宗繁(五大院宗繁むねしげ)に預けましたから心配はありません、この子(亀寿丸=北条時行ときゆき)も隠しておくれ」と申しも敢えず、涙に咽べば、盛高も心ない岩木ではありませんでしたので、悲しく思いましたが、心を強く持って申すには、「万寿御料([貴人の子息・息女をいう尊敬語])は五大院右衛門宗繁が具足し参らせましたが、敵に見付けられて追っかけられ、小町口の在家に走り入って、若子(万寿丸)を刺し殺し、我が身も腹を切って焼け死にました。若御も今日がこの世の名残り、これを限りと思われませ。とても隠れることなどできませぬ、狩場の雉が草に隠れるように、敵に捜し出されて、幼い屍に、一家の名を失うことが残念でございます。それよりは大殿(北条高時)の手に懸けられて冥途までもお伴申すことこそ、生々世々([未来永劫])の忠孝ではございませんか。急ぎ参らせますよう」と勧めました、


続く


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by santalab | 2016-02-06 08:02 | 太平記 | Comments(0)

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