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「太平記」細川相摸守討死事付西長尾軍事(その2)

その頃右馬のかみ頼之よりゆきは、山陽道せんやうだう蜂起ほうきを静めんとて、備中の国に居たりけるが、この事を聞いて、備中・備前両国の勢千余騎を率し、讃岐の国へ押し渡る。この時もし相摸のかみ敵の船より上がらんずるところへ、馳せ向かつて戦はば、一戦も利あるまじかりしを、右馬のかみあくまで心に智謀あつて、機変きへん時とともに消息せうそくする人なりければ、かねて母儀ぼぎの禅尼を以つて、相摸の守の許へ言ひ遣りけるは、「将軍群小の讒佞ざんねいを正されず、貴方きはう科なく刑罰に向かはせ給ひし時、陳謝ちんじやに言葉なくして寇讐こうしうに恨みありし事、頼之よりゆきもつともその理に服し候ひき。さながら、故左大臣殿も、仁木につき・細川の両家りやうけ股肱ここうとして、大樹累葉るゐえふの九功を光栄すべしとこそ仰せ置かれ候ひしに、一家いつけよしみを放れて敵に降り、多年の忠を捨てて、戦ひを致され候はん事、亡魂の恨み苔の下まで深く、不義のそしり世の末までも朽ちざるべし。頼之いやしくもこの理を存ずるゆゑに、まつたく貴方と合戦を致すべき心ざしを廻らじ。往者いんじを不尤と申す事候へば、御いきどほり今はこれまでにてこそ候へ。曲げて御方へ御参り候へ。御分国以下、ことごとく日来に替はらぬ沙汰すべきにて候ふ。もしまたそれも御意に叶はで、御本意を天下の反覆はんぶくに達せんと思し召され候はば、頼之力なく四国を捨てて備中へ罷り帰るべく候ふ」言葉をやはらげ礼を厚くして、しきりに和睦の儀を請はれけるを、相摸の守心浅く信じて、問答に日数を経ける間に右馬の頭中国の勢を待ち調へ城郭じやうくわくを堅くこしらへて、その後は音信れもなかりけり。




その頃右馬頭頼之(細川頼之)は、山陽道の蜂起を鎮めるために、備中国にいましたが、これを聞いて、備中・備前両国の勢千余騎を率し、讃岐国へ押し渡りました。この時もし相摸守(細川清氏きようぢ)が敵船より上がろうとするところへ、馳せ向かって戦っておれば、一戦に勝つことができたものを、右馬頭(頼之)はたいそう智謀のある者で、機変に応じて消息する人でしたので、前もって母儀の禅尼を遣って、相摸守(清氏)の許へ申すには、「将軍(室町幕府第二代将軍、足利義詮よしあきら)は群小([多くの取るに足らないことやもの])の讒佞([人を中傷して上の者にへつらうこと])を正されず、貴方に罪なくして刑罰されようとしたことに、陳謝の言葉もなく寇讐([敵])を恨むのは、この頼之(細川頼之)も当然のことだと思っております。とは申せ、故左大臣殿(洞院公賢きんかた)が、仁木・細川両家を股肱([主君の手足となって働く、最も頼りになる家来や部下])として、大樹累葉の九功を光栄にせよと申し置かれましたのに、一家の好みを放れて敵に降り、多年の忠を捨てて、戦いをなせば、亡魂の恨みは苔の下まで深く、不義の譏りは世の末までも朽ちることはありません。頼之は凡夫ながらこの理を弁えておりますので、まったく貴方(清氏)と合戦を致す心はございません。往者不尤(往く者を恨まず)と申します、憤りを鎮められますよう。曲げて御方へ参られませ。分国([国司の職権を付与されて知行する国])以下、例外なく今までと変わらぬ沙汰をいたします。もしまたそれも満足せず、天下の反覆([転覆])することが本意と申されるのであれば、この頼之(細川頼之)に出来ることはありません四国を捨てて備中へ帰りましょう」。穏やかな言葉で礼を厚くして、しきりに和睦を請いました、相摸守(細川清氏きようぢ)は深く考えもせずにこれを信じて、問答([質問と応答])に日数を経る間に右馬頭(細川頼之)は中国の勢を待ち調えて城郭を守り固く造り上げて、その後は知らせはありませんでした。


続く


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by santalab | 2016-02-11 08:03 | 太平記 | Comments(0)

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