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「太平記」長崎新左衛門尉意見の事付阿新殿の事(その3)

長崎新左衛門しんざゑもんじようまた自余の意見をも不待、以つての外に気色きしよくを損じて、重ねてまうしけるは、「文武ぶんぶおもむき一つなりと云へども、用捨時異なるべし。しづかなる世には文を以つていよいよをさめ、乱れたる時には武を以つて急に静む。ゆゑに戦国の時には孔盂不足用、太平の世には干戈かんくわ似無用。事すでに急に当たりたり。武を以つて治むべきなり。異朝いてうには文王・武王、臣として、無道ぶだうの君を討ちし例あり。我がてうには義時よしとき泰時やすときしもとして不善のしゆを流す例あり。世皆これを以つて当たれりとす。されば古典にも、『君視臣如土芥、則臣視君如冦讎』と云へり。事停滞して武家追罰つゐばつの宣旨を下されなば、後悔こうくわいすともえきあるべからず。ただすみやかに君を遠国をんごくに遷しまゐらせ、大塔おほたふの宮を硫黄いわうが嶋へ流し奉り、隠謀の逆臣げきしん資朝すけとも俊基としもとを誅せらるるより外の事あるべからず。武家の安泰万世に及ぶべしとこそ存じ候へ」と、居長高ゐだけだかに成つて申まうしける間、当座たうざの頭人・評定衆ひやうぢやうしゆ、権勢にやおもねりけん、また愚案にや落ちけん、皆この義に同じければ、道蘊だううん再往さいわうの忠言に及ばず眉を顰めて退出す。




長崎新左衛門尉(長崎高資たかすけ)は自余の意見を待つことなく、もってのほか機嫌を損じて、重ねて申すには、「文武の求めるところ一つとは申せ、用捨は時によるもの。静かな世には文を以って治め、乱れた時には武を以って速やかに急に静めるべきなのです。故に戦国の時には孔盂(孔子と孟子)は役に立たず、太平の世には干戈([武力])は必要ありません。事はすでに急を告げております。武を以って治めるべき時です。異朝(中国)には文王(周朝の始祖)・武王(周朝の創始者。文王の次子)が、臣として、無道の君(殷の紂王)を討tら例があります。我が朝には義時(鎌倉幕府第二代執権、北条義時)・泰時(鎌倉幕府第三代執権、北条泰時。北条義時の長男)が、下(臣)として不善の主(第八十二代後鳥羽院)を流した例もございます。今の世はこれらに当たるものです。なれば古典にも、『君が臣を土芥([値打ちのないもの、取るに足りないもののたとえ])のように扱えば、臣は君を冦讎([仇])のように見なす」と言います。事が停滞して武家追罰の宣旨を下されれば、後悔したところで仕方ありません。ただ速かに君(第九十六代後醍醐天皇)を遠国に遷し、大塔宮(護良もりよし親王)を硫黄島に流して、隠謀の逆臣、資朝(日野資朝)・俊基(日野俊基)を誅すほかございません。これでこそ武家の安泰が万世に及ぶのではございませんか」と、立身に成って申したので、当座の頭人・評定衆は、権勢に押されたか、また愚案にや落ちたか、皆この義に同じたので、道蘊(二階堂貞藤さだふぢ)は再度の忠言に及ばず顔をしかめて退出しました。


続く


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by santalab | 2016-02-25 08:16 | 太平記 | Comments(0)

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