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「太平記」長崎新左衛門尉意見の事付阿新殿の事(その11)

このちごの有様を見ていたはしくや思ひけん、「これはいづくよりいづくを指して御渡り候ふぞ」と問ひければ、阿新事のやうをありのままにぞ語りける。山臥これを聞いて、我この人を助けずば、只今のほどにかはゆき目を見るべしと思ひければ、「御心安く思し召され候へ。湊に商人舟あきんどぶねどもおほく候へば、乗せ奉つて越後・越中の方まで送り付け参らすべし」と云ひて、足たゆめば、この児を肩に乗せ背に負うて、ほどなく湊にぞ行き着きける。夜明けて便船やあるとたづねけるに、折節をりふし湊の内に舟一艘いつさうもなかりけり。いかんせんと求むる処に、遥かの澳に乗り浮かべたる大船、順風に成りぬと見てほばしらを立てとまを巻く。山臥手を上げて、「その船これへ寄せてび給へ、便船申さん」と呼ばはりけれども、かつて耳にも聞き入れず、舟人ふなうど声を帆に上げて湊の外に漕ぎ出だす。




この子の様子を見てかわいそうに思ったか、「そなたはどこから来たどこへ行こうとしておるのか」と訊ねると、阿新は今までのことをありのままに話しました。山伏はこれを聞いて、我がこの人を助けなければ、只今のほどに痛わしき目を見るに違いないと思い、「安心されなさい。港には商人舟が多くあります、これに乗せて越後・越中の方まで送ってあげよう」と言って、足が疲れれば、この子を肩に乗せ背に負って、ほどなく港に着きました。夜が明けて便船があるかと探しましたが、ちょうど港には舟は一艘もありませんでした。どうしようかと舟を探していると、遥か沖に浮かんだ大船が、順風になったと見て帆柱を立て篷([すげかやなどで編んで作ったもの。船などを覆い、雨露をしのぐのに用いる])を巻いていました。山伏は手を上げて、「その船よここへ寄せてくれ、便船申す」と叫びましたが、まったく耳にも聞き入れず、舟人は声を帆に上げて港の外に漕ぎ出しました。


続く


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by santalab | 2016-03-05 07:38 | 太平記 | Comments(0)

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