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「太平記」長崎新左衛門尉意見の事付阿新殿の事(その12)

山臥おほきに腹を立て柿の衣の露を結んで肩に懸け、澳行く舟に立ち向かつて、苛高誦珠いらたかじゆずをさらさらと押し揉みて、「一持秘密咒いちぢひみつじゆ生々而加護しやうしやうにかご奉仕修行者ぶじしゆぎやうじや猶如薄伽梵いうによばがぼんと云へり。いはんや多年の勤行ごんぎやうに於いてをや。明王みやうわう本誓ほんせい誤らずば、権現金剛童子こんがうどうじ・天竜夜叉・八大龍王はちだいりゆうわう、その船こなたへ漕ぎ返してばせ給へ」と、をどり上がり跳り上がり肝胆を砕いてぞ祈りける。行者ぎやうじやの祈りしんに通じて、明王擁護やし給ひけん、澳の方よりにはかに悪風吹き来たつて、この舟忽ちにくつかへらんとしけるあひだ舟人ふなうどどもあはてて、「山臥の御房、先づ我らを御助け候へ」と手を合はせ膝をかがめ、手に手に舟を漕ぎ戻す。みぎは近く成りければ、船頭舟より飛び下りて、ちごを肩に乗せ、山臥の手を引いて、屋形の内に入りたれば、風はまた元の如くになほりて、舟は湊を出でにけり。




山伏はたいそう腹を立てて柿の衣([山伏などが着る柿色の衣])の露([狩衣・水干などの袖くくりのひものたれた端])を結んで肩に懸け、沖行く舟に向かって、苛高誦珠([そろばんの玉のように平たくて角の高い玉を連ねた数珠。修験者が用いる])をさらさらと揉みながら、「一度秘密咒(不動真言)を唱えれば、永遠の加護を受ける、奉仕の修行者は、薄伽梵([仏の称号])に値すると言う。申すまでもなく多年勤行を積んでおる身なれば。不動明王の本誓が正しくば、権現金剛童子([八大金剛童子]=[不動明王の使者])・天竜夜叉([天龍八部衆]=[仏法を守護する八神]の一)・八大龍王([天竜八部衆に所属する竜族の八王])よ、その船をこちらに漕ぎ返してほしい」と、躍り上がり躍り上がり一心に祈りました。行者の祈りが神に通じて、明王が擁護したのか、沖の方より急に悪風が吹いて、舟はたちまち転覆しようとしたので、舟人どもはあわてて、「山伏の御房、ともあれ我らをお助けください」と手を合わせ膝を屈めて、手に手に舟を漕ぎ戻しました。水際近くなれば、船頭は舟より飛び下りて、児(阿新丸)を肩に乗せ、山伏の手を引いて、屋形の内に入れると、風はまた元の如く順風になって、舟は湊を出ました。


続く


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by santalab | 2016-03-05 07:44 | 太平記 | Comments(0)

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