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「太平記」僧徒六波羅召捕事付為明詠歌の事(その3)

六波羅の北の壺に炭をこす事、鉄湯炉壇くわくたうろだんの如くにして、その上に青竹をりて敷き双べ、少し隙を開けければ、猛火みやうくわほのほいて、烈々れつれつたり。朝夕雑色でうじやくざふしき左右さいうに立ち並んで、両方りやうばうの手を引つ張つて、その上を歩ませ奉らんと、支度したる有様は、ただ四重しぢゆう五逆ごぎやくの罪人の、焦熱大焦熱せうねつだいせうねつの炎に身を焦がし、牛頭馬頭ごづめづの呵責に逢ふらんも、かくこそあらめと思へて、見るにも肝は消えぬべし。為明ためあきらきやうこれを見給て、「硯やある」とたづねられければ、白状はくじやうの為かとて、硯に料紙れうしを取り添へて奉りければ、白状にはあらで、一首の歌をぞ書かれける。

思ひきや 我が敷嶋の 道ならで 浮世の事を 問はるべしとは

常葉ときは駿河のかみ、この歌を見て感歎肝に銘じければ、泪を流してに伏す。東使両人もこれを読みて、諸共に袖を浸しければ、為明ためあきら水火すゐくわの責めを遁れて、とがなき人に成りにけり。




六波羅探題の北庭にまるで鉄湯炉壇([炉壇]=[護摩壇。護摩をたく炉を据える壇])を据えるように、炭を熾こし、その上に青竹を割っ敷き並べ、少し空いた隙からは、猛火の炎が、激しく吹き上がりました。朝夕雑色([鎌倉幕府で、種々の雑役に従った下級職員])が左右に立ち並んで、両方の手を引つ張って、その上を歩ませようと、支度する様は、ただ四重([四種の重罪。殺生・偸盗ちゆうたう・邪淫・妄語])五逆([天の道に背く、五つの重い罪悪])の罪人が、焦熱大焦熱([八大地獄の第六・七])の炎に身を焦がし、牛頭馬頭の呵責([厳しく咎めてしかること])に遭うのも、このようなものかと思われて、見る者さえ肝は消えてしまいました。為明卿(二条為明ためあき)はこれを見て、「硯はあるか」と訊ねると、白状のためかと、硯に料紙([物を書くのに用いる紙])を取り添えて渡すと、白状ではなく、一首の歌を書きました。

思いもしなかったことよ。敷島([和歌])のことを訊ねるのかと思っていたが、まさか浮世の話であったとは。

常葉駿河守(常葉範貞のりさだ。六波羅探題北方)は、この歌を見てたいそう感嘆して、涙を流してもっともなことだと思いました。東使([鎌倉幕府から京都にある朝廷や六波羅探題、関東申次などに派遣された使者])両人もこれを読んで、諸共に袖を濡らしたので、為明は水火の責めを遁れて、罪を免がれました。


続く


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by santalab | 2016-03-12 18:11 | 太平記 | Comments(0)

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