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「太平記」金剛山寄手ら被誅事付佐介貞俊事(その7)

とても心の留まる浮世ならねば、命をしとは思はねども、故郷こきやうに捨て置きし妻子どもの行く、何とも聞かで死なんずる事の、余りに心に懸かりければ、最期の十念じふねん勧めけるひじりに付いて、年来身を放たざりける腰の刀を、預かり人の許より乞ひ出だして、故郷の妻子の許へぞ送りける。聖これを請け取つて、その行く末を可尋申と領状りやうじやうしければ、貞俊さだとし無限喜びて、敷皮しぎかはの上に居直ゐなほつて、一首の歌を詠じ、十念高らかに唱へて、しづかに首をぞ打たせける。

皆人の 世にある時は 数ならで 憂きにはもれぬ 我が身なりけり




とても心の置き所がある浮世とも思えず、命を惜しいとも思いませんでしたが、故郷に捨て置いた妻子どものその後を、行く、何も聞かないまま死ぬことが、あまりに心残りで、最期の十念を勧める聖に近付いて、年来身から離さなかった腰刀を、預かり人([罪人などを預かって監視したり世話をしたりする人])の許より請け取って、故郷の妻子の許へ送りました。聖がこれを受け取って、その行く末を尋ね申すことを了承すると、貞俊(北条貞俊)はたいそうよろこんで、敷皮の上に居直り、一首の歌を詠じ、十念を高らかに唱えて、心静かに首を打たれました。

皆人が世にある時には、物の数ではなかったが、皆と同じくこの悲しみから逃れることは叶わなかった、我が身とはそのようなものであったな。


続く


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by santalab | 2016-03-20 09:12 | 太平記 | Comments(0)

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