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「太平記」金剛山寄手ら被誅事付佐介貞俊事(その9)

この外あるひは偕老かいらうの契り空しくして、をつとに別れたる妻室は、いやしくも二夫じふせん事を悲しんで、深き淵瀬に身を投げ、あるひは口養くやうたすけなくして子に後れたる老母は、わづかに一日のざんを求め兼ねてみづか溝壑こうがくに倒れ伏す。承久しようきうよりこの方、平氏世を執つて九代、暦数すでに百六十ひやくろくじふ余年に及びぬれば、一類いちるゐ天下にはびこりて、威を振るひいきほひを欲しいままにせる所々の探題、国々の守護、その名を挙げて天下にある者すでに八百人に余りぬ。いはんやその家々の郎従らうじゆうたる者幾万億と云ふ数を不知。去ればたとひ六波羅こそ容易く輒被責落とも、筑紫と鎌倉をば十年じふねん・二十年にも被退治事難しとこそ思へしに、六十余州悉く割り符を合はせたる如く、同時に軍起こつて、わづかに四十三日しじふさんにちの中に皆滅びぬる業報ごつぱうのほどこそ不思議なれ。




このほかあるいは偕老の契り([偕老同穴]=[共に暮らして老い、死んだ後は同じ墓穴に葬られること])も空しく、夫と別れた妻室は、浅ましくして二夫に嫁することを悲しんで、深い淵瀬に身を投げ、あるいは口養([生計])の当てもなく子に先立たれた老母は、わずかかに一日の餐([飲食物])を求めかねて自ら溝壑に倒れ伏しました(行き倒れて死ぬこと)。承久よりこの方、平氏(北条氏)が世を執って九代、暦数は百六十余年に及んで、一類([一門])は天下にはびこり、威を振るい栄華を欲しいままにして所々の探題、国々の守護、名を上げ天下にある者はすでに八百人に余りました。言うまでもなくその家々の郎従([家来])の者は幾万億と言う数を知りませんでした。なればたとえ六波羅探題こそ容易く攻め落とされたといえども、筑紫と鎌倉は十年・二十年かかっても退治することは難しいと思えましたが、六十余州が残らず割り符([木片などの中央に証拠となる文字を記し、 また証印を押して、二つに割ったもの])を合わせたように、同時に軍が起こって、わずかに四十三日のうちに皆滅ぶ業報のほどこそ不思議なことでした。


続く


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by santalab | 2016-03-22 08:46 | 太平記 | Comments(0)

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