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「源氏物語」夢浮橋(その13)

怪しけれど、「これこそは、さは、確かなる御消息ならめ」とて、「こなたに」と言はせたれば、いと清げにしなやかなる童の、えならず装束きたるぞ、歩み来たる。円座さし出でたれば、簾のもとについゐて、「かやうにては、さぶらふまじくこそは、僧都は、のたまひしか」と言へば、尼君ぞ、いらへなどし給ふ。文取り入れて見れば、「入道の姫君の御方に、山より」とて、名書き給へり。あらじなど、あらがふべきやうもなし。いとはしたなく思えて、いよいよ引き入られて、人に顔も見合はせず。「常に誇りかならず物し給ふ人柄なれど、いとうたて、心憂し」など言ひて、僧都の御文見れば、「今朝、ここに大将殿の物し給ひて、御有様尋ね問ひ給ふに、初めよりありしやう詳しく聞こえ侍りぬ。御心ざし深かりける御仲を背き給ひて、怪しき山賤やまがつの中に出家し給へること、かへりては、仏の責め添ふべきことなるをなむ、承り驚き侍る。いかがはせむ。もとの御契り過ち給はで、愛執の罪を晴るかし聞こえ給ひて、一日の出家の功徳は、はかりなきものなれば、なほ頼ませ給へとなむ。事々には、みづからさぶらひて申し侍らむ。かつがつ、この小君聞こえ給ひてむ」と書いたり。




尼君はどういうことかと思いましたが、「これは、まあ、確かに僧都からの文です」と申して、「こちらへお通しなさい」と告げると、とても美しく瑞々しい童が、すばらしい装束で、後を付いて来ました。円座([渦巻き形に、まるく編んだ敷物])を差し出すと、簾の近くに座って、「内々に、お伝えしたいことがあると、僧都が、申されておられます」と言ったので、尼君は、返事をしました。文を取り入れてみれば、「入道の姫君の御方に、山より」と、名が書いてありました。ここにはおりませんなどと、偽ることもできませんでした。女の心は落ち着かず、ますます奥に下がり、人に顔を見せることができませんでした。「いつもは礼儀あるお方なのに、どうかしましたか、思いがけなく文をいただいたというのに」などと言って、僧都の文を見れば、「今朝、ここに大将殿(薫)がお見えになられて、あなたのことを訊ねられました、初めより今までのことを詳しくお話ししました。大将殿の心ざし深いお方の仲を引き裂いて、みすぼらしい山賤([身分の卑しい者])の中に出家させたこと、かえって、仏の責めを受けることになるのではないかと、話を伺って驚いております。どうでしょう。かつての契りに過つことなく、愛執の罪を晴らされてはいかがでしょう(還俗なさいませ)、一日の出家の功徳は、限りないものでございますれば、きっと仏が守護なさることでしょう。詳しい話は、みずから出向いて申し上げます。おおよそのことは、この小君が申されることでしょう」と書いてありました。


続く


by santalab | 2016-04-08 21:16 | 源氏物語

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