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「太平記」千剣破城軍の事(その6)

名越なごや一家の人々この事を聞いて、安からぬ事に被思ければ、「当手たうての軍勢ども一人も不残、城の木戸を枕にして、討ち死にをせよ」とぞ被下知ける。これによつてかの手の兵五千余人、思ひ切つて討てども射れども用ひず、乗り越え乗り越え城の逆茂木一重ひとへ引き破つて、切り岸の下までぞ攻めたりける。されども岸高うして切り立つたれば、矢長やたけに思へども上り得ず、ただいたづらに城を睨み、忿いかりを押さへて息継ぎ居たり。この時城のうちより、切り岸のうへに横たへて置いたる大木十計り切つて落とし懸けたりける間、将碁倒しやうぎたふしをする如く、寄せ手四五百人しに被討て死にけり。これに違はんとしどろに成つて騒ぐ処を、十方の櫓より指し落とし、思ふやうに射ける間、五千余人のつはものども残り少なに討たれて、その日の軍は果てにけり。まことに心ざしのほどは猛けれども、ただし出だしたる事もなくて、若干そくばく討たれにければ、「あはれはぢの上の損かな」と、諸人の口遊くちずさみは猶不止。




名越(北条時見ときみ)一家の人々はこれを聞いて、放ってはおけまいと、「当手の軍勢どもよ一人残らず、城の木戸を枕にして、討ち死にせよ」と命じました。こうして名越の兵五千余人は、覚悟を決めて打ち出て矢を射ましたが敵は相手をしなかったので、堀を乗り越え乗り越え城の逆茂木を一重引き破って、切り岸の下まで攻めました。けれども岸は高く切り立っていたので、弥猛([盛んに勇み立つ様])に思えど上ることはできず、ただ城を睨み上げて、怒りを抑えて息を継いでいました。この時城の中より、切り岸の上に横たえて置いていた大木を十ばかり切って落とし懸けたので、将碁倒しに、寄せ手四五百人が押しつぶされて死にました。これを避けようと逃げまどい騒ぐところを、十方の櫓より矢を射懸け、思うままに射たので、五千余人の兵どもは残り少なに討たれて、その日の軍は果てました。まことに心ざしのほどは勇敢でしたが、成果はなく、若干が討たれたので、「なんと恥の上に益もなし」と、諸人の口遊みは止まることがありませんでした。


続く


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by santalab | 2016-04-12 07:42 | 太平記 | Comments(0)

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