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「太平記」千剣破城軍の事(その7)

世の常ならぬ合戦のていを見て、寄せ手もあなどりにくくや思ひけん、今は始めのやうに、勇み進んで攻めんとする者もなかりけり。長崎四郎左衛門しらうざゑもんじようこの有様を見て、「この城を力責めにする事は、人の討たるる計りにて、その功成り難し。ただ取り巻いて食責じきぜめにせよ」と下知げぢして、軍を被止ければ、徒然に皆堪へ兼ねて、花のもと連歌師れんがしどもを呼び下し、一万句の連歌をぞ始めたりける。その初日の発句ほつくをば長崎九郎左衛門師宗もろむね

さき懸けて かつ色みせよ 山桜

としたりけるを、脇の句、工藤二郎右衛門じらううゑもんの尉、
嵐や花の かたきなるらん

とぞ付けたりける。まことに両句ともに、ことばの縁巧みにして句のていいうなれども、御方をば花になし、敵を嵐に喩へければ、禁忌きんきなりける表事へうじかなと後にぞ思ひ知られける。




世の常の戦いぶりではないと、寄せ手も油断ならぬと思ったか、今ははじめのように、勇み進んで攻めようとする者はいませんでした。長崎四郎左衛門尉(長崎高貞たかさだ)はこの有様を見て、「この城を力攻めにしても、人が討たれるばかりで、勝つことは難しい。ただ取り巻いて食攻めにせよ」と命じて、軍を止めました、皆暇を持て余して、花の下に連歌師([連歌を専門に詠む人])どもを呼び下し、一万句の連歌([和歌の五・七・五=長句。に、ある人が七・七=短句。を付け、さらにある人が五・七 ・五を付け加えるというように、百句になるまで長句・短句を交互に連ねる])を始めました。その初日の発句を長崎九郎左衛門師宗(長崎師宗)が、

咲き懸けて色を見せよ(先駆けて勝ってみよ)、山桜。

と詠みました、脇句([短句])を、工藤二郎右衛門尉(工藤高景たかかげ)が、
嵐が花の敵となろう。

と付けました。まことに両句ともに、詞巧みにして見事なものでしたが、味方を花になし、敵を嵐に例えた歌でしたので、禁忌([忌み嫌って、慣習的に禁止したり避けたりするもの])の表事([徴し])かと後に思い知らされました。


続く


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by santalab | 2016-04-13 07:25 | 太平記 | Comments(0)

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