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「太平記」摩耶合戦の事付酒部瀬河合戦の事(その6)

敵これを見て、楯の端少し動いて、懸かるかと見ればさもあらず、色めきたる気色に見へける間、七騎の人々馬より飛び下り、竹の一叢ひとむら滋りたるを木楯こだてに取つて、差し詰め引き詰め散々にぞ射たりける。瀬川せがはの宿の南北三十さんじふ余町よちやうに、沓の子を打つたるやうに控へたる敵なれば、何かははづるべき。矢比やころ近き敵二十五騎、真逆まつさかさまに被打落ければ、矢面なる人を楯にして、馬を射させじと立て兼ねたり。平野伊勢の前司・佐用さよ上月かうつき・田中・小寺こてら・八木・衣笠の若者ども、「すはや敵は色めきたるは」と、えびらを叩き、勝つ鬨を作つて、七百余騎くつばみを双べてぞ懸けたりける。大軍の靡くくせなれば、六波羅勢前陣ぜんぢんかへせども後陣不続、行くゆくさきせばし、「しづかに引け」といへども耳にも不聞入、子は親を捨て郎等らうどうは主を知らで、我前われさきにと落ち行きけるほどに、その勢大半討たれてわづかに京へぞ帰りける。




敵はこれを見て、楯の端を少し開いて、懸かるかと思えばそうではなく、驚いたような顔をしているように見えたので、七騎の人々は馬より飛び下り、竹が一叢茂ったのを木楯に取って、差し詰め引き詰め散々に矢を射ました。瀬川宿(現大阪府箕面市)の南北三十余町に、沓の子を打った([たくさんの人や物がすきまなく立ち並ぶ様])ように控えていた敵でしたので、よもや外すことはありませんでした。矢比に近い敵二十五騎が、まっさかさまに打ち落とされると、矢面の人を楯にして、馬を射させまいとして駆け出ませんでした。平野伊勢前司・佐用・上月・田中・小寺・八木・衣笠の若者どもは、「敵は怖気づいておるぞ」と、箙([矢を入れる容器])を叩き、勝き鬨を作って、七百余騎が轡を並べて駆け出ました。大軍はまたたく間に靡いて、六波羅勢は前陣は引き返せども後陣は続かず、行く前狭く、「徐々に引け」と言えども耳にも聞き入れず、子は親を捨て郎等([家来])は主を見捨てて、我先にと落ちて行ったので、その勢の大半が討たれてわずかに京に帰りました。


続く


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by santalab | 2016-04-25 07:27 | 太平記 | Comments(0)

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