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「太平記」持明院殿行幸六波羅事(その1)

日野中納言資名すけな・同じき左大弁宰相資明すけあきら二人ににん同車どうじやして、内裏へ参り給ひたれば、四門しもんいたづらに開き、警固の武士は一人もなし。主上南殿に出御成つて、「たれか候ふ」と御たづねあれども、衛府諸司ゑふしよしの官、蘭台金馬らんたいきんめの司もいづちへか行きたりけん、勾当こうたうの内侍・上童うへわらは二人より外は御前おんまへに候する者なかりけり。資名・資明二人御前に参じて、「官軍くわんぐん戦ひ弱くして、逆徒不期洛中に襲ひ来たり候ふ。加様かやうにて御坐候はば、賊徒差し違へて御所中へも乱入らんにふ仕りさふらひぬと思へ候ふ。急ぎ三種さんじゆの神器を先立てて六波羅へ行幸ぎやうがう成り候へ」と被申ければ、主上やがて腰輿えうよに被召、二条にでう川原かはらより六波羅へ臨幸りんかう成る。




日野中納言資名(日野資名)・同じく左大弁宰相資明(日野資明すけあき)二人が同車して、内裏に参ると、四門は開かれて、警固の武士は一人もいませんでした。主上(北朝初代光厳天皇)は南殿に出御されて、「誰かおらぬか」と訊ねられましたが、衛府諸司の官、蘭台金馬([弁官と文官])の司もどこへ行ったか、勾当内侍([掌侍ないしのじよう四人のうち首位の者])・上童二人のほかは御前に伺候する者はいませんでした。資名・資明二人は御前に参って、「官軍の戦い弱く、逆徒は思いもよらぬことに洛中に襲い来ておりまする。ここにおられては、賊徒が御所中に乱入するやも知れません。急ぎ三種の神器を先立てて六波羅へ行幸なさいますよう」と申すと、主上はたちまち腰輿に召され、二条河原より六波羅へ臨幸されました。


続く


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by santalab | 2016-05-03 08:30 | 太平記 | Comments(0)

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