人気ブログランキング | 話題のタグを見る

Santa Lab's Blog


「太平記」坂本御皇居並御願書の事(その2)

定宗ぢやうしゆう御前おんまへひざまづいまうしけるは、「桓武くわんむ皇帝くわうていの御宇に、高祖かうそ大師当山を開基かいきして、百王鎮護の伽藍を立られさふらひしよりこの方、朝家に悦びある時は、九院こぞつてたなごころを合はせ、山門に愁へある日は、百司等しく心をかたぶけられずと申す事候はず。まことに仏法と王法と相比あひひする故、人として知らずと云ふ者候ふべからず。されば今逆臣朝廷をあやしめんとするに依つて、かたじけなくも万乗の聖主、我が山を御頼みあつて、臨幸成つて候はんずるを、さみし申す衆徒は、一人もあるまじきにて候ふ。身不肖ふせうに候へども、定宗一人忠貞を存ずるほどならば、三千の宗徒、二心はあらじと思し召し候ふべし。供奉ぐぶ官軍くわんぐんさこそ窮屈きゆうくつに候ふらめ。先づ御宿を点じてまゐらせ候ふべし」とて、二十一箇所の彼岸所ひがんしよ、その外坂本・戸津とづ比叡辻へいつじ坊々ばうばう・家々に札を打つて、諸軍勢をぞ宿しける。




定宗が御前にひざまづいて申すには、「桓武皇帝(第五十代桓武天皇)の御宇に、高祖大師(最澄)が当山(比叡山)を開基して、百王鎮護の伽藍を建られてよりこの方、朝家によろこびある時は、九院([比叡山にある九つの主要な堂塔。一乗止観院・定心院・ 総持院・四王院・戒壇院・八部院・山王院・西塔院・浄土院])は挙って手を合わせ、山門に愁えある日は、百司等しく心を傾けずということはございません。まことに仏法と王法は相並んで、人として知らない者はおりません。なれば今逆臣が朝廷を転覆しようとして、畏れ多くも万乗の聖主が、我が山を頼りにされて、臨幸なされましたこと、軽んじる衆徒は、一人もおりません。身は不肖ではございますが、定宗一人が忠貞を存ずるほどならば、三千の宗徒、二心はないと思われなさいませ。供奉の官軍さぞや窮屈でございましょう。まずは宿を用意いたしましょう」と申して、二十一箇所の彼岸所(現滋賀県大津市にある日吉大社境内の各所に設けられた仏教施設)、そのほか坂本・戸津・比叡辻の坊々・家々に札を打って、軍勢の宿としました。


続く


by santalab | 2016-05-08 10:56 | 太平記

<< 「太平記」坂本御皇居並御願書の...      「太平記」坂本御皇居並御願書の... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧