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「太平記」還幸供奉人々被禁殺事(その3)

この外山門より供奉して被出たる三公九卿きうけいわづかに死罪一等を被宥たれども、解官停任げくわんちやうにんせられて、あるもなきが如くの身に成り給ひければ、傍人ばうじんの光彩に向かつて面を泥沙でいしやの塵にれ、後生の栄耀えいえうを望んで涙を犬羊けんやうの天にそそく。住みにし迹に帰り給ひけれども、庭には秋の草茂りて通ひし道露深く、ねやには夜の月のみ差し入りて塵打ち払ふ人もなし。顔子がんし一瓢いつぺう水清くして、独り道ある事を知るといへども、相如しやうじよ四壁しへき風すさまじうして衣なきに堪へず、五衰退没たいもつの今の悲しみに、大梵高台だいぼんかうたいの昔の楽しみを思ひ出し給ふにも、世の憂き事は数添ひて、涙の尽くる時はなし。




このほか山門(延暦寺)より供奉した三公九卿は、わずかに死罪一等を宥められましたが、解官停任となり、あるもなきが如くの身になって、傍人の光彩に向かって面を泥沙の塵に垂れ、後生の栄耀を望んで涙を犬羊([つまらぬ者のたとえ])の天に淋ぎました。住み慣れた跡に帰りましたが、庭には秋の草が茂ってかつて通った道には露深く、閨には夜の月のみ差し入り塵を打ち払う人もありませんでした。顔子(顔回。孔子の弟子)が一瓢([わずかな飲料])の水清くして、孤独であることを知ることになりましたが、それでも相如四壁([司馬相如=前漢の文学者。は若いころ非常に生活に困り、家はただ四方の壁しかなかった故事])が風すさまじく衣なきに堪えず、五衰([天人の死に際して現れるという五種の衰えの 相])退没([上地から下地へ、楽の世界から苦の 世界へ落ちること])の今の悲しみに、大梵高台([華やかな宮殿のたとえ])の昔の楽しみを思ひ出すにも、世の憂悲しみは数添って、涙が尽きる時はありませんでした。


続く


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by santalab | 2016-05-18 11:30 | 太平記 | Comments(0)

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