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「太平記」山徒寄京都事(その3)

大衆斯かるべしとは思ひも寄らず、我前われさきに京へ入つて良からんずる宿をも取り、財宝ざいはうをも管領くわんりやうせんと心ざして、宿札どもを面々に二三十づつ持たせて、先づ法勝寺へぞ集りける。その勢を見渡せば、今路いまみち・西坂・古塔下ふるたふげ八瀬やせ薮里やぶさと下松さがりまつ赤山口せきさんぐちに支へて、前陣すでに法勝寺・真如堂しんによだうに付けば後陣ごぢんは未だ山上・坂本に満ち満ちたり。甲冑かつちうに映ぜる朝日は、電光でんくわうげきするに不異。旌旗せいきを靡かす山風は、竜蛇りようじやの動くに相似あひにたり。山上さんじやうと洛中との勢の多少を見合はするに、武家の勢は十にしてその一にも不及。「げにもこの勢にてはたやすくこそ」と、六波羅を見下しける山法師やまほふしの心のほどを思へば、大様おほやうながらもことわりなり。




大衆([僧])はそのようなこととは思いも寄らず、我先に京に入って良い宿を取り、財宝をも管領([我がものにすること])しようと思い、宿札([姓名などを記し、門口に掲げて、その人の住居であることを知らせる札])を面々に二三十ずつ持って、まず法勝寺(かつて現京都市左京区岡崎辺にあった寺院)に集まりました。その勢を見渡せば、今路(今路道。京の七口である荒神口=現京都市上京区。から、近江に至る街道)・西坂・古塔下・八瀬(現京都市左京区)・薮里・下松・赤山口に支えて、前陣がすでに法勝寺・真如堂(現京都市左京区にある真正極楽寺)に着けば後陣はまだ山上・坂本(現滋賀県大津市)に満ち満ちていました。甲冑に映る朝日は、まるで電光が稲光りするようでした。旌旗([旗])が山風に靡く様は、竜蛇が動くようでした。山上と洛中との勢を比べると、武家の勢は十にしてその一にも及びませんでした。「まことこれだけの勢よ勝つのは容易いこと」と、六波羅を見下す山法師の心を思えば、大様([大雑把])で浅はかなのも当然でした。


続く


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by santalab | 2016-05-19 07:58 | 太平記 | Comments(0)

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