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「太平記」京軍事(その7)

三月十三日じふさんにち、仁木・細川・土岐・佐々木・佐竹・武田・小笠原をがさはら相集あひあつまつて七千余騎、七条西洞院にしのとうゐんへ押し寄せ、一手は但馬・丹後の敵と戦ひ、一手は尾張をはり修理しゆりの大夫高経たかつねと戦ふ。この陣の寄せ手ややもすれば被懸立ていに見へければ、将軍より使者を立てられて、「那須五郎を可罷向」と被仰ける。那須はこの合戦に打出ける始め、古郷こきやう老母らうぼの許へ人を下して、「今度の合戦にもし討ち死に仕らば、親に先立つ身と成りて、草の陰・苔の下までも御歎きあらんを見奉らんずる事こそ、思ひ遣るも悲しく存じ候へ」と、まうし遣はしたりければ、老母泣く泣く委細に返事を書いて申し送りけるは、「いにしへより今に至るまで、武士の家にまるる人、名をしみて命を不惜、皆これ妻子に名残りを慕ひ父母に別れを悲しむといへども、家を思ひあざけりを恥づるゆゑに惜しかるべき命を捨つるものなり。始め身体髪膚しんていはつぷを我に受けて残傷そこなひやぶらざりしかば、その孝すでにあらはれぬ。今また身を立て道を行うて名を後の世に揚ぐるは、これ孝のはりたるべし。されば今度の合戦に相構あひかまへて身命をかろんじて先祖の名を不可失。これは元暦げんりやくいにしへ曩祖なうそ那須の与一資高すけたかは、八島の合戦の時扇を射て名を揚げたりし時の母衣ほろなり」とて、薄紅うすくれなゐの母衣を錦の袋に入れてぞ送りたりける。さらでだに戦場に臨みて、いつも命をかろんずる那須五郎が、老母らうぼに義を勧められていよいよ気を励ましける処に、将軍より別して使ひを立てられ、「この陣の戦ひ難儀に及ぶ。向かつて敵を払へ」と無与儀も被仰ければ、那須かつて一儀も不申畏つて領状りやうじやうす。




三月十三日、仁木・細川・土岐・佐々木・佐竹・武田・小笠原が集まって七千余騎で、七条西洞院へ押し寄せ、一手は但馬・丹後の敵と戦い、一手は尾張修理大夫高経(斯波高経)と戦いました。この陣の寄せ手ややもすれば駆け立てられると見えたので、将軍(足利尊氏)より使者を立てて、「那須五郎(那須資藤すけふぢ)を向かわす」と告げました。那須はこの合戦に打ち出る時、故郷の老母の許へ人を下して、「今度の合戦にもし討ち死にすれば、親に先立つ身となり、草葉の陰・苔の下までもお嘆きになられるであろうと、思ひ遣るも悲しく思われます」と、申し遣わせば、老母も泣く泣く委細に返事を書いて申し送りました、「古より今に至るまで、武士の家に生まれる人というものは、名を惜しんで命を惜しまず、皆妻子に名残りを慕い父母に別れを悲しむといえども、家を思い嘲りを恥じる故に惜しむべき命を捨てるものです。身体髪膚([全身])を我が身に受けて五体満足に生まれたからは、その孝はすでに顕われています。今また身を立て道に従い名を後の世に上げるのは、孝の極みです。なれば今度の合戦では身命を軽んじ決して先祖の名を失わぬよう。元暦の昔、これは曩祖([祖先])である那須与一資高(那須宗高むねたか。後に父と同じ資隆名乗ったらしい)が、屋島(現香川県高松市)の合戦の時に扇を射て名を上げた時の母衣([矢や石などから防御するための甲冑の補助武具で、兜や鎧の背に巾広の絹布をつけて風で膨らませるもの])です」と、薄紅の母衣を錦の袋に入れて送りました。それでなくとも戦場に臨んで、いつも命を軽んじる那須五郎(資藤)が、老母に義を勧められてますます気を励ますところに、将軍より特別に使いを立てられ、「この陣の戦い難儀に及ぶ。向かって敵を追い払え」と余儀なく([他になすべき方法がないこと])命じたので、那須は一儀も申さず畏って領状しました。


続く


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by santalab | 2016-05-19 08:07 | 太平記 | Comments(0)

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