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「太平記」山徒寄京都事(その5)

ここに東塔とうだふの南谷善智房ぜんちばうの同宿に豪鑒がうかん豪仙がうせんとて、三塔さんたふ名誉の悪僧あり。御方の大勢に被引立て、不心北白河きたしらかはを指して引きけるが、豪鑒豪仙を呼び留めて、「軍の習ひとして、勝つ時もあり負くる時もあり、時の運による事なればはぢにて不恥。雖然今日の合戦のてい、山門の恥辱天下の嘲哢てうろうたるべし。いざや御辺、相共あひともかへし合はせて打ち死にし、二人ににんが命を捨てて三塔さんたふの恥を雪めん」と云ひければ、豪仙、「云ふにや及ぶ、もつと庶幾そきする所なり」と云つて、二人蹈み留まつて法勝寺の北の門の前に立ち並び、大音声だいおんじやうを揚げて名乗りけるは、「これほどに引き立つたる大勢の中より、ただ二人かへし合はするを以つて三塔一のがうの者とは可知。その名をば定めて聞き及びぬらん、東塔とうだふの南谷善智坊ぜんちばうの同宿に、豪鑒・豪仙とて一山いつさんに名を知られたる者どもなり。我と思はん武士ども、寄れや、打ち物して、自余のともがらに見物せさせん」と云ふ侭に、四尺余りの大長刀おほなぎなた水車みづぐるままはして、をどり懸かり跳り懸かり火を散らしてぞ切つたりける。これを打ち取らんと相近付あひちかづける武士ども、多く馬の足を被薙、兜の鉢を被破て被討にけり。




ここに東塔の南谷善智房の同宿([同じ寺に住み、同じ師について修行すること。また、その僧])に豪鑒・豪仙という、三塔に名高い悪僧([武勇に秀で た荒々しい僧。荒法師])がいました。味方の大勢に押されて、心ならずも北白川(現京都府京都市左京区)を指して引き退いていましたが、豪鑒は豪仙を呼び留めて、「軍というもの、勝つ時もあれば負ける時もあり、時の運によるものならば恥も恥でなし。とはいえ今日の合戦は、山門の恥辱天下の嘲哢となろう。お主よどうだ、ともに返し合わせて討ち死にし、二人の命を捨てて三塔の恥を雪ごうではないか」と言うと、豪仙も、「我もそう思っていたところよ、それこそもっとも庶幾([心から願うこと])するところよ」と言って、二人は踏み留まって法勝寺(かつて現京都市左京区岡崎辺にあった寺院)の北門の前に立ち並び、大音声を上げて名乗るには、「これほどに引き立つ([逃げ腰になる])大勢の中より、ただ二人返し合わすのだ三塔一の剛の者と思うであろう。その名をきっと聞き及んであろうが、東塔の南谷善智坊の同宿に、豪鑒・豪仙と申して一山に名を知られた者よ。我と思わん武士どもよ、寄れや、打ち物([太刀])の軍して、自余の輩に見物させてやろうとは思わぬか」と言うままに、四尺余りの大長刀を水車のように廻して、跳り懸かり跳り懸かり火を散らして切り懸けました。これを討ち取ろう近付く武士どもは、多く馬の足を薙がれ、兜の鉢を破られて討たれました。


続く


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by santalab | 2016-05-21 08:10 | 太平記 | Comments(0)

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