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「太平記」八幡御託宣の事(その1)

ここにて落ち集まつたる勢を見れば五万騎ごまんぎに余れり。この上に伊賀・伊勢・和泉・紀伊国の勢ども、なほ馳せ集まるべしと聞こへしかば、暫くこの勢を散らさで今一合戦可有かと、諸大将しよだいしやうの異見まちまちなりけるを、直冬ただふゆ朝臣、「許否凡慮の及ぶ処に非ず。八幡の御宝前にして御神楽みかぐらを奏し、託宣のことばに付けて軍の吉凶を知るべし」とて、様々の奉幣を奉り、蘋蘩ひんぱんを勧めて、すなはち神の告げをぞ待たれける。社人の打つつづみの声、きねが袖振る鈴の音、深け行く月に神さびて、聞く人信心をかたぶけたり。託宣の神子みこ啓白けいびやくの句、言葉巧みに玉を連ねて、様々の事どもをまうしけるが、

たらちねの 親を守りの 神なれば この手向けをば 受くるものかは

と一首の神歌を繰り返し繰り返し二三反詠じて、その後御神は上がらせ給ひにけり。




ここで落ち集まった勢を見れば五万騎に余っていました。この上に伊賀・伊勢・和泉・紀伊国の勢どもが、さらに馳せ集まると聞こえたので、しばらくこの勢を散らずもう一合戦すべきかと、諸大将の意見はまちまちでしたが、直冬朝臣(足利直冬。足利尊氏の長男)は、「許否は凡慮の及ぶものでしたはない。八幡(現京都府八幡市にある石清水八幡宮)の宝前で御神楽を奏し、託宣の言葉によって軍の吉凶とすべし」と申して、様々の奉幣を奉り、蘋蘩([粗末な供え物])を勧めて、神の告げを待ちました。社人が打つ鼓の音、巫([巫女])が袖を振る鈴の音、深け行く月に神さびて([荘厳で神秘的である])、聞く人は信心を傾けました。託宣の神子([神に仕えて神事を行い、また、神意をうかがって神託を告げる者])は、啓白([神仏に願いを申し述べること])の句を、言葉巧みに連ねて、様々の事どもを申していましたが、

八幡神は源氏代々の守護神であるぞ、ならば親である尊氏に対して戦するお主の手向けを、どうして受けることができようか。

と一首の神歌を繰り返し繰り返し二三反詠じて、その後神は上って行きました。


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by santalab | 2016-05-21 08:17 | 太平記 | Comments(0)

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