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「太平記」広有射怪鳥事(その1)

元弘三年七月に改元あつて建武けんむに被移。これは後漢の光武、治王莽之乱再び続漢世佳例なりとて、漢朝かんてうの年号を被摸けるとかや。今年天下に疫癘えきれいあつて、病死する者はなはだ多し。これのみならず、その秋の頃より紫宸殿の上に怪鳥けてう出で来て、「いつまでいつまで」とぞ鳴きける。その声響雲驚眠。聞く人皆無不忌恐。すなはち諸卿相議あひぎしていはく、「異国の昔、げうの代にここのつの日出でたりしを、羿げいと云ひける者うけたまはつて、やつつの日を射落せり。我が朝のいにしへ堀川ほりかはゐんの御在位ざいゐの時、有反化物、奉悩君しをば、さきの陸奥のかみ義家よしいへ承つて、殿上てんしやう下口したぐちに候し、三度弦音を鳴らして鎮之。また近衛こんゑの院の御在位の時、ぬえと云ふ鳥の雲中にかけつて鳴きしをば、源三位げんざんみ頼政よりまさきやう蒙勅、射落したりし例あれば、源氏の中にたれか可射候者ある」と被尋けれども、射はづしたらば生涯の恥辱と思ひけるにや、我承らんとまうす者なかりけり。




元弘三年(1333)七月に改元があって建武に移りました。これは後漢の光武帝(後漢の初代皇帝)が、王莽わうもう(新朝の皇帝)の乱(昆陽の戦い)を治め漢を復興させた佳例([吉例])であると、漢朝の年号を模したとか。この年天下に疫癘([悪性の流行病。疫病])が起こって、病死する者がたいそう多くいました。これのみならず、その秋頃より紫宸殿の上に怪鳥が現れて、「いつまで続くか」と鳴きました。その声は雲に響き眠りを驚かすほどでした。聞く人は皆忌み恐れずということはありませんでした。たちまち諸卿が相議して、「異国の昔、尭(中国神話に登場する君主)の代に九つの日が現れたが、羿と言う者が命じられて、八つの日を射落とした。我が朝の古、堀河院(第七十三代天皇)が在位の時、反化の物が現れて、君を悩ませたが、前陸奥守義家(源義家)が承って、殿上の下口([裏口])で、三度弦音を鳴らしてこれを鎮めた。また近衛院(第七十六代天皇)が在位の時、鵺と言う鳥が雲中に翔って鳴いたが、源三位頼政卿(源頼政)が勅を蒙り、射落したり例がある、源氏の中に誰かこれを射る者がおるか」と尋ねましたが、射外せば生涯の恥辱となると思ったか、承ると申す者はいませんでした。


続く


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by santalab | 2016-05-25 22:59 | 太平記 | Comments(0)

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