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「太平記」主上自令修金輪法給ふ事付千種殿京合戦の事(その3)

無笠符ては同士打ちもありぬべしとて、白き絹を一尺づつ切つて風と云ふ文字を書いて、よろひの袖にぞ付けさせられける。これは孔子のことばに、「君子の徳は風なり。小人の徳は草なり。草に風を加ふる時は不偃と云ふ事なし」と云ふ心なるべし。六波羅には敵を西に待ちけるゆゑに、三条さんでうより九条まで大宮面おほみやおもてに屏を塗り、櫓を掻いて射手を上げて、小路小路こうぢこうぢに兵を千騎せんぎ二千騎控へさせて、魚鱗に進み、鶴翼に囲まんやうをぞはかりける。「寄せ手の大将はそ」と問ふに、「前帝第六の若宮、副将軍は千種の頭の中将ちゆうじやう忠顕ただあきの朝臣」と聞こへければ、「さては軍の成敗せいはいにくからず。源は同じ流れなりといへども、『江南かうなんの橘、江北かうほくに被移てからたちと成る』習ひなり。弓馬の道を守る武家のともがらと、風月の才を事とする朝廷てうていの臣と闘ひを決せんに、武家不勝と云ふ事不可有」と、各々勇み進んで、七千余騎大宮面に打ち寄せて、寄せ手遅しとぞ待ち懸けたる。




笠符がなくては同士打ちもあるだろうと、白絹を一尺ずつ切って風と言う文字を書いて、鎧の袖に付けさせました。これは孔子の言葉に、「君子の徳は風である。小人の徳は草である。草に風を当てると草が倒れぬことはない(倒れるからと言って従服しているわけではないが、徳をもってすれば心から従うものである)」と言う意味でした。六波羅では敵を西に待ち受けて、三条から九条まで大宮面に屏を塗り、櫓を掻いて射手を上げて、小路小路に兵を千騎二千騎控えさせて、魚鱗に進み、鶴翼に囲もうと企てました。「寄せ手の大将は誰か」と訊ねると、「前帝(第九十六代後醍醐天皇)の第六の若宮(恒良つねよし親王)、副将軍は千種頭中将忠顕朝臣(千種忠顕)」と答えたので、「ならば軍の成敗は大したことはあるまい。源は同じ流れ(千種氏は村上源氏の流れ)といえども、『江南の橘を、江北に植えれば枳となる』(『所変われば品変わる』?)というものよ。弓馬の道を守る武家の輩と、風月の才を専らとする朝廷の臣が戦えば、武家が勝たぬことがあろうや」と、各々勇み進んで、七千余騎が大宮面に打ち寄せて、寄せ手遅しと待ち懸けました。


続く


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by santalab | 2016-06-05 09:35 | 太平記 | Comments(0)

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