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「太平記」兵部卿親王流刑の事付驪姫事(その8)

献公元来ぐわんらい智浅うしてざんを信ずる人なりければ、おほきに忿いかつて太子申生しんせいを可討由、典獄の官に被仰付。諸群臣皆、申生の無罪して死に赴かんずる事を悲しみて、「急ぎ他国へ落ちさせ給ふべし」とぞ告げたりける。申生これを聞き給ひて、「我少年の昔は母を失うて、長年の今継母けいぼに逢へり。これ不幸の上に妖命えうめい備はれり。そもそも天地の間いづれの所にか父子のなき国あらん、今為遁其死他国へ行きて、これこそ父を殺さんとて鴆毒ちんどくを与へたりし大逆不幸だいぎやくふかうの者よと、見る人毎ににくまれて、生きては何のかほばせかあらん。我が不誤処をば天知之。ただ虚名の下に死を賜はつて、父の忿いかりを休めんには不如」とて、討つ手の未だ来たらざるさきみづから剣に貫かれて、つひに空しく成りにけり。そのおとと重耳ちようじ夷吾いごこの事を聞きて、驪姫りきざんのまた我が身の上に成らん事を恐れて、二人ともに他国へぞ逃げ給ひける。




献公(第十九代晋公)は元より思慮浅く讒([他人を陥れるために事実でない悪口を言うこと])を容易く信じる人でしたので、たいそう怒って太子申生(晋公の子)を討つようにと、典獄([監獄の事務をつかさどる官吏])の長官に命じました。群臣は皆、申生が罪なく死に赴くことを悲しんで、「急ぎ他国へ逃げなさい」と知らせました。申生はこれを聞いて、「わたしは少年の昔に母を失い、長年を経て継母を得ました。これ不幸の上に妖命([不吉な運命])故のこと。そもそも天地の間いずれの所に父子のない国があろうか、今死を遁れて他国へ行けば、これこそ父を殺そうとして鴆毒([鴆 という(伝説の)鳥の羽にあるという猛毒])を与えた大逆([人の道に背く最も悪い行い。主君や親を殺すことなど])不幸の者よと、見る人毎に憎まれて、生きて何の面目があろう。わたしに過ちがないことを天は知っておろう。ただ虚名の下に死を賜わって、父の怒りを静めたい」と申して、討手がまだ寄せる前に自ら剣に貫かれて、遂に空しくなりました。申生の弟重耳・夷吾はこれを聞いて、驪姫(晋公の妃)の讒がまた我が身の上になることを恐れて、二人ともに他国へ逃げました(驪姫の乱)。


続く


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by santalab | 2016-06-05 17:03 | 太平記 | Comments(0)

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