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「太平記」兵部卿親王流刑の事付驪姫事(その9)

かくて奚齊けいせいに晋の国をゆづり得たりけるが、天命に背きしかば、無幾程献公・奚齊父子ともに、その臣里剋りこくと云ひける者に討たれて、晋の国忽ちに滅びけり。そもそも今兵革ひやうかく一時にしづまつて、廃帝重祚ちようそを践ませ給ふ御事、偏へにこの宮の依武功に事なれば、たとひ雖有小過誡めてかも可被宥かりしを、無是非被渡敵人手、被処遠流事は、朝廷再び傾いて武家また可蔓延はびこる瑞相ずゐさうにやと、人々まうし合ひけるが、果たして大塔おほたふの宮被失させ給ひし後、忽ちに天下皆将軍のと成りてけり。牝鶏ひんけいあしたするは家の尽くるさうなりと、古賢こけんの云ひしことばすゑ、げにもと被思知たり。




こうして奚斉(中国春秋時代の第二十代晋公)に晋国を譲ることとなりましたが、天命に背くことでしたので、ほどなく献公(第十九代晋公)・奚斉父子ともに、その臣里剋(里克)と言う者に討たれて、晋国はたちまち滅びました(晋はその後、献公の子である恵公夷吾いご、文公重耳ちようじが治めることになる)。そもそも今兵革([軍])は一時に鎮まり、廃帝(第九十六代後醍醐天皇)が重祚されたのも、ひとえにこの宮(護良もりよし親王)の武功によるものでしたので、たとえ小過があったにせよ罪を宥められるべきでしたのに、是非なくして敵の手に渡され、遠流に処すことは、朝廷は再び傾いて武家が蔓延る瑞相([前兆])ではないかと、人々は申し合っていましたが、果たして大塔宮(護良親王)が失せた後、たちまちに天下は皆将軍(足利高氏)の時代となりました。牝鶏晨す([めんどりが鳴いて朝を知らせる。女が権勢を振るうたとえ。国や家が衰える前兆とされる])は家が尽きる相([吉凶などの現れた、姿・形・有様])であると、古賢(孔子)が残した一片の言葉が、なるほどと思い知らされるのでした。


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by santalab | 2016-06-05 17:07 | 太平記 | Comments(0)

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