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「太平記」吉野殿与相公羽林御和睦の事付住吉松折事(その4)

三位殿さんみどの御局とまうししは、今天子の母后にておはしませば、院号かうむらせ給ひて、新待賢門院しんたいけんもんゐんとぞ申しける。北畠入道源の大納言は、准后じゆごうの宣旨を蒙りて華著けたる大童子おほわらはを召し具し、てぐるまして宮中を出入すべきよそほひ、天下耳目じぼくを驚かせり。この人は故奥州あうしうの国司顕家あきいへきやうの父、今皇后くわうごう厳君げんくんにてをはすれば、武功と云ひ華族くわしよくと云ひ、申すに及ばぬ所なれども、竹園摂家ちくゑんせつけの外に未だ准后の宣旨を被下たる例なし。平相国へいしやうこく清盛入道出家の後、准后の宣旨を蒙りたりしは、皇后の父たるのみに非ず、安徳天皇てんわう外祖ぐわいそたり。また忠盛ただもりが子とは名付けながら、正しく白河しらかはゐんの御子なりしかば、華族も栄達も今の例には引き難し。日野の護持院ごぢゐん僧正そうじやう頼意らいいは、東寺の長者醍醐の座主に被補て、仁和寺諸院家しよゐんげを兼ねたり。大塔おほたふの僧正忠雲ちゆううんは、梨本大塔おほたふの両門跡を兼ねて、鎌倉の大御堂おほみだう天王寺てんわうじの別当職に被補。この外山中伺候の人々、名家めいか清華せいぐわを超え、庶子は嫡家ちやくけを越えて、官職雅意に任せたり。もし如今にて天下定まらば、歎く人はおほくして悦ぶ者は可少。元弘一統の政道如此にて乱れしを、取つていましめとせざりける心の程こそ愚かなれ。




故三位殿局(阿野廉子やすこ)と申されたのは、今天子(第九十七代後村上天皇)の母后でしたので、院号を下されて、新待賢門院と申されました(ちなみに阿野廉子はこの時には在命)。北畠入道源大納言(北畠親房ちかふさ)は、准后の宣旨を下されて花を付けた大童子([寺で召し使う少年のうち、出自などの理由で最上級とされた者])を召し具し、手輦に乗って宮中を出入する姿は、天下の耳目を驚かせました。この人は故奥州国司顕家卿(北畠顕家)の父、今の皇后(後村上天皇の女御)の厳君([父君])でしたので、武功と言い華族([清華家=公卿の家格の一。摂関家に次ぎ大臣家の上に位する家柄。の別称])と言い、申すまでもありませんでしたが、竹園([皇族])摂家のほかにいまだ准后の宣旨を下された例はありませんでした。平相国清盛入道(平清盛)が出家の後に、准后の宣旨を下されたのは、皇后(第八十代高倉天皇の中宮、平徳子とくこ)の父であるばかりでなく、安徳天皇(第八十一代天皇)の外祖([母方の祖父])でした。また忠盛(平忠盛)の子とは名付けながら、まさしくは白河院(第七十七代天皇)の子でしたので(白河院の寵妃、祇園女御は妹の子である平清盛を猶子にしたらしい)、華族も栄達も今の例には当てはまりませんでした。日野護持院僧正頼意は、東寺(現京都市南区にある教王護国寺)の長者醍醐(現京都市伏見区にある醍醐寺)の座主に補されて、仁和寺(現京都市右京区にある門跡寺院)諸院家([門跡寺院の別院で、本寺を補佐し、諸種の法務を行う寺院])を兼任しました。大塔僧正忠雲は、梨本(現京都市左京区にある三千院)大塔(現京都市左京区にあった法勝寺)の両門跡を兼ねて、鎌倉大御堂(現神奈川県鎌倉市にあった勝長寿院)、天王寺(現大阪市天王寺区にある四天王寺)の別当職に補されました。このほか山中(賀名生殿。現奈良県五條市)に伺候の人々は、名家は清華を超え、庶子は嫡家を越えて、官職は思いのままでした。もしこのままが天下が定まれば、悲しむ人は多くよころぶ者は少なかったことでしょう。元弘一統の政道もこうして乱れましたが、戒めとしなかった心のほどこそ愚かなことでした。


続く


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by santalab | 2016-06-29 19:10 | 太平記 | Comments(0)

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