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「太平記」吉野殿与相公羽林御和睦の事付住吉松折事(その6)

住吉に臨幸成つて三日に当たりける日、社頭に一つの不思議あり。勅使神馬じんめたてまつて奉幣を捧げたりける時、風も不吹に、瑞籬たまがきの前なるおほいなる松一本中よりれて、南に向いてたふれにけり。勅使驚いて子細を奏聞しければ、伝奏吉田の中納言宗房よしふさ卿、「えうは不勝徳」とのたまひてさまでも驚き給はず。伊達三位さんみ有雅いうがが武者所にありけるが、この事を聞いて、「あな浅ましや、この度の臨幸りんかう成らせ給はん事は難有。その故は昔いんの帝大戊たいぼうの時、世のかたぶかんずるしるしをあらはして、庭に桑穀くはの木一夜に生ひて二十にじふ余丈よぢやうはびこれり。帝大戊おそれて伊陟いちよくに問ひ給ふ。伊陟がまうさく、「臣聞くえうは不勝徳に、君の政のかくる事あるに依つて、天この兆しを降すものなり。君早く徳ををさめ給へ」とまうしければ、帝すなはち諌めにしたがひて正政撫民、招賢退佞給ひしかば、この桑穀の木また一夜の中に枯れて、霜露の如くに消え失せたりき。加様の聖徳を被行こそ、妖をば除く事なるに、今の御政道に於いてその徳何事なれば、妖は不勝徳とは、伝奏の被申やらん。かへす返すも難心得才学さいかくかな」と、眉をひそめてぞ申しける。その夜いかなる嗚呼をこの者かしたりけん。この松を押しけづりて一首の古歌を翻案ほんあんしてぞ書きたりける。

君が代の 短かるべき ためしには 兼てぞ折れし 住吉の松

と落書にぞしたりける。




住吉に臨幸になられて三日目に当たる日、社頭で一つの不思議がありました。勅使が神馬を献上して奉幣を捧げた時、風も吹かずして、瑞籬([神社など の周囲に設けた垣根] )の前の大きな松が一本途中より折れて、南に向いて倒れました。勅使は驚いて子細を奏聞すると、伝奏吉田中納言宗房卿(吉田宗房)は、「妖は徳に勝たず」と申してさほどは驚きませんでした。伊達三位有雅は武者所にいましたが、これを聞いて、「なんとも嘆かわしいことよ。この度の臨幸をなし遂げられることはなかろう。その故は昔殷の帝大戊(殷の第九代王)の時、世が傾く兆しを現じて、庭に桑の木が一夜に生えて二十余丈(約60m。一般に桑は高くとも15mほどらしい)もはびこった。帝大戊は怖れて伊陟(中国殷の政治家。伊尹いいんの子)に訊ねました。伊陟が申して、「妖は徳に勝たずと申しますが、君が政をおざなりになされたので、天がこの兆しを示されたのです。君よ早く徳を治めるなさいませ」と申したので、帝はたちまち諌めに従って政を正し民を憐れみ、賢人を招いて佞人([口先巧みにへつらう、心のよこしまな人])を退けたので、この桑の木は一夜の中に枯れて、霜露の如く消え失せました。このような聖徳を行ってこそ、妖を除くことができるのです、今の政道においてその徳のほどどれほどなれば、妖は徳に勝たずと、伝奏が申したのか。返す返すも心得ぬ才学かな」と、眉を顰めて([他人の嫌な行為に不快を感じて顔をしかめる])申しました。その夜いかなる嗚呼([道化])の者がしたのか。この松を削って一首の古歌を翻案([原作を生かし、大筋は変えずに改作すること])して書き付けました。

君が代が短いものであることを暗示したのでしょうか、折れてしまった住吉の松よ。(元歌は、『君が代の 久しかるべき ためしにや 兼ねてぞ栽ゑし 住吉の松』=『君が代が永遠に続くことを予言していたのでしょうか、遥か昔に植えられた住吉の松よ。』)

と落書しました。


続く


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by santalab | 2016-06-30 08:00 | 太平記 | Comments(0)

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