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「太平記」将軍御兄弟和睦事付天狗勢汰事(その2)

如此目出度めでたき事のみある中に、高倉殿最愛の一子今年四つに成り給ひてけるが、今月二十六日にじふろくにちにはかに失せ給ひければ、母儀を始め奉り上下万人泣き悲しむ事限なし。さても西国東国の合戦、わりふを合はせたるが如く同時に起きて、師直もろなほ師泰もろやす兄弟父子の首、皆京都に上りければ、等持寺とうぢじの長老旨別源しべつげん、葬礼を取り営みて下火あこの仏事をし給ひけるに、

昨夜春園風雨暴
和枝吹落棣棠花

と云ふ句のありけるを聞いて、皆人感涙をぞ流しける。この二十にじふ余年執事の被官ひくわんに身を寄せて、恩顧に誇る人幾千万ぞ。昨日まで烏帽子の折様をりやう衣紋えもんの矯め様をまねて、「これこそ執事の内の人よ」とて、世に重んぜられん事を求めしに、今日はいつしか引き替へてかたちやつし面を側めて、「すはや御敵方の者よ」とて、人に知られん事を恐懼きようくす。用ゆるときは鼠も為虎、用ゐざるときは虎も為鼠と云ひ置きし、東方朔とうばうさく虎鼠こその論、まことに当たれる一言なり。




このようにおめでたいことばかりの中に、高倉殿(足利直義ただよし)最愛の子(足利如意丸)は今年四つになっていましたが、今月二十六日にわかに亡くなって、母儀をはじめ上下万人が泣き悲しむこと限りありませんでした(戦死らしい)。それにしても西国東国の合戦が、割り符を合わせるように同時に起きて、師直(高師直)・師泰(高師泰)兄弟父子の首が、皆京都に上ったので、等持寺(現京都市中京区にあった寺院)の長老旨別源(別源円旨)が、葬礼を取り営んで下火([禅宗で、火葬のときに導師が遺体を焼く燃料に火をつけること])の仏事を致しました、

昨夜春園に風雨が激しく吹いて、
棣棠花(山吹)の花は枝から落ちてしまった。

という句が残されていたと聞いて、皆人は感涙を流しました。この二十余年執事(高師直)の被官に身を寄せて、恩顧に誇る人が幾千万いたでしょう。昨日まで烏帽子の折り様([折烏帽子]=[頂を折り伏せた形の烏帽子。武士がかぶったので侍烏帽子ともいう])、衣紋の矯め様(着こなし)をまねて、「これこそ執事の身内の人よ」と、世に重んぜられることを願っていましたが、今日はいつしか引き替えて姿を窶し顔を伏せて、「敵方の者よ」と、人に知られることを恐れ怖じました。用いるときは鼠も虎となし([時に遇えば鼠も虎となる]=[時運に恵まれると、つまらない 者でも権勢を振るうようになる])、用いざる時は虎も鼠となる([登用しなければ持てる能力すら発揮できない])と言い置いた、東方朔(前漢・武帝時代の政治家)の虎鼠の論、まことに言い当てた一言でした。


続く


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by santalab | 2016-07-02 10:16 | 太平記 | Comments(0)

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