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「太平記」将軍御兄弟和睦事付天狗勢汰事(その3)

将軍兄弟こそ、まことに繊芥せんかいの隔てもなく、和睦にて所存もなくおはしけれ。その門葉もんえふにあつて、附鳳ふほういきほひをむさぼつて、攀竜はんりようの望みを期するやからは、人の時を得たるを見てはそねみ、己が威を失へるをかへりみては、いきどほりを不含云ふ事なし。されば石塔いしたふ・上杉・桃井もものゐは、様々のざんを構へて、将軍に付き順ひ奉る人々を失はばやと思ひ、仁木につき・細川・土岐・佐々木は、種々のはかりことを廻らして、錦小路殿にしきのこうぢどのに、又人もなげに振る舞ふ者どもを滅さばやとぞたくみける。天魔波旬はじゆんは斯かる所を伺ふ者なれば、如何なる天狗どものわざにてかありけん、夜にだに入りければ、いづくより馳せ寄するとも知らぬつはものども、五百騎三百騎、鹿ししの谷・北白河・阿弥陀け峯・紫野辺に集まりて、勢揃へをする事度々に及ぶ。




将軍兄弟(足利尊氏・足利直義ただよし)こそ、まことに繊芥([細かいごみ。転じて、ごくわずかなことにいう])の隔てもなく、和睦の上は思うところもありませんでした。その門葉([一族])にあって、附鳳([勢力のある者につき従うこと])の勢いを貪り、攀竜([竜にすがりつくこと])の望みを期する族は、人が時を得たのを見ては嫉み、己が威を失うのを顧みては、憤りを覚えない者はいませんでした(『攀竜附鳳』)。されば石塔(石塔義房よしふさ)・上杉(上杉憲顕のりあき)・桃井(桃井直常ただつね)は、様々の讒を用いて、将軍(足利尊氏)に付き従う人々を失おうと思い、仁木(仁木頼章よりあき)・細川(細川頼春よりはる)・土岐(土岐頼康よりやす)・佐々木(佐々木道誉だうよ)は、種々の謀を廻らして、錦小路殿(足利直義)に、ほかに人もいないほどに振る舞う者どもを滅そうと企みました。天魔波旬([天魔と波旬=人間を殺したり、善を妨げたりする悪魔。人の善事を行うのを妨げる悪魔])はこのようなところを窺う者でしたので、如何なる天狗どもの態でしょうか、夜になれば、どこより馳せ寄せるとも知らぬ兵どもが、五百騎三百騎と、鹿ヶ谷(現京都市左京区)・北白川(現京都市左京区)・阿弥陀ヶ峰(現京都市東山区)・紫野(現京都市北区)辺に集まって、勢揃えをすること度々に及びました。


続く


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by santalab | 2016-07-02 10:27 | 太平記 | Comments(0)

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