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「太平記」三井寺合戦並当寺撞鐘事付俵藤太事(その11)

事のていをよくよく見るに、二行にとぼせる松明たいまつは皆己が左右の手に灯したりと見へたり。あはれこれは百足百足むかでの化けたるよと心得て、矢比やころ近くなりければ、くだんの五人張りに十五束じふごそく三つ伏せ忘るるばかり引き絞りて、眉間の真ん中をぞ射たりける。その手答へくろがねを射るやうに聞こへて、はずを返してぞ立たずにける。秀郷一の矢を射損じて、不安思ひければ、二の矢をつがうて、一分も違はずわざと前の矢所やつぼをぞ射たりける。この矢もまた前の如くにをどかへりて、これも身に立たずにけり。秀郷二つの矢をば皆射損じつ、頼むところは矢一筋ひとすぢなり。いかがせんと思ひけるが、きつと案じ出だしたる事あつて、この度射んとしける矢先に、つばきを吐き懸けて、また同じ矢所やつぼをぞ射たりける。この矢に毒を塗りたるゆゑにや依りけん、また同じ矢坪を三度まで射たる故にや依りけん、この矢眉間のただ中をとほりてのんどの下まで羽ぶくら責めてぞ立ちたりける。二三千見へつる松明たいまつも、光たちまちに消えて、島の如くにありつる物、倒るる音大地を響かせり。立ち寄りてこれを見るに、果して百足の百足むかでなり。竜神はこれを悦びて、秀郷ひでさとを様々にもてなしけるに、太刀一振り・巻絹まきぎぬ一つ・鎧一領いちりやう・首結うたるたはら一つ・赤銅しやくどう一口いつくを与へて、「御辺の門葉もんえふに、必ず将軍になる人多かるべし」とぞ示しける。




何かとよくよく見れば、二列に灯した松明は皆その左右の手に灯していました。なんとこれは百足の化け物と心得て、矢比近くなると、件の五人張りの弓に十五束三つ伏せの矢を忘れるばかりに引き絞り、眉間の真ん中を射ました。その手答えは鉄を射るように聞こえて、筈([矢の末端の弓のつるを受ける部分])を返して矢は立ちませんでした。秀郷(藤原秀郷)は一の矢を射損じて、安からず思い、二の矢を番い、一分も違わず前の矢壼を射ました。この矢もまた前と同じく踊り返って、これも身に立つことはありませんでした。秀郷は二本の矢を皆射損じて、頼むところは矢一筋だけでした。どうすべきかと思いましたが、覚悟を決めると、この矢先に、唾を吐き懸けて、また同じ矢壺を射ました。この矢には毒が塗ってあったからなのか、はたまた同じ矢壺を三度まで射たからなのか、この矢は眉間のただ中を通って喉の下まで羽ぶくら([矢につけた羽根])深く刺さりました。二三千見えた松明も、光はたちまちに消えて、島のように巨大な物が、倒れる音が大地を響かせました。近付いてこれを見れば、やはり百足でした。竜神はよろこんで、秀郷を様々にもてなして、太刀一振り・巻絹([長い絹])一つ・鎧一領・首を結んだ俵一つ・赤銅の撞き鐘一口(鐘は一口いつこうと数えるそうな)を与えて、「御辺の門葉([子孫])に、将軍になる人を多く輩出することでしょう」と示唆しました(足利氏は藤原秀郷の子孫だという)。


続く


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by santalab | 2016-07-11 08:14 | 太平記 | Comments(0)

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