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「太平記」大樹摂津国豊嶋河原合戦事(その5)

千度百般ちたびももたび戦へども、御方の軍勢のいくさしたる有様、見るに敵ふべくとも思えざりければ、将軍も早や退屈のてい見へ給ひけるところへ、大伴まゐつて、「今の如くにては何としても御合戦よかるべしとも思え候はず。さいはひに船ども数多あまた候へば、ただ先づ筑紫つくしへ御開き候へかし。小弐せうに筑後の入道御方にて候ふなれば、九国の勢多く付きまゐらせ候はば、やがて大軍を動かして京都を攻められ候はんに、何程の事か候ふべき」とまうしければ、将軍げにもとや思し召しけん、やがて大伴が舟にぞ乗り給ひける。諸軍勢これを見て、「すはや将軍こそ御舟に召されて落ちさせ給へ」とののめき立つて、取る物も取り敢へず、乗りをくれじとあはて騒ぐ。舟はわづかに三百余艘よさうなり。乗らんとする人は二十万騎にじふまんぎに余れり。一艘いつさうに二千人ばかりこみ乗りける間、大船一艘乗りしづめて、一人も残らず失せにけり。自余の舟どもこれを見て、さのみは人を乗せじとともづなを解いて差し出だす。乗り遅れたるつはものども、物の具衣裳いしやうを脱ぎ捨てて、遥かの沖に泳ぎ出で、舟に取り付かんとすれば、太刀・長刀にて切り殺し、櫓櫂にて打ち落とす。乗り得ずして渚に帰る者は、いたづらに自害をして礒越す波に漂へり。




千度百度戦いましたが、味方の軍勢の軍を様を、見るに付け敵うとも思われず、将軍(足利尊氏)もすでに退屈([困難にぶつかってしりごみすること])するように見えるところに、大伴が参って、「今のままでは合戦に勝てるとも思われません。幸いにも船が数多くございます、まずは筑紫に参られますよう。小弐筑後入道(少弐貞経さだつね)は味方でございます、九国([九州])の勢が多く付けば、たちまち大軍を動かして京都を攻めたならば、あっという間に方が付くことでございましょう」と申したので、将軍はもっともなことだと思ったか、やがて大伴の舟に乗りました。諸軍勢はこれを見て、「なんと将軍が舟に乗られて落ちて行かれるぞ」と叫び立てて、取る物も取り敢えず、乗り遅れまいとあわて騒ぎました。舟はわずかに三百余艘でした。乗ろうとする人は二十万騎に余りました。一艘に二千人ばかり混み乗ったので、大船一艘を乗り沈めて、一人も残らず失せました。自余の舟どもはこれを見て、大勢乗せまいと艫綱を解いて船を出しました。乗り遅れた兵どもは、物の具([武具])衣を脱ぎ捨てて、遥か沖に泳ぎ出て、舟に取り付こうとすれば、太刀・長刀で切り殺し、櫓櫂で打ち落としました。乗り得ず渚に帰った者は、ただ自害をして磯越す波に漂いました。


続く


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by santalab | 2016-08-14 09:09 | 太平記 | Comments(0)

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