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「太平記」賀茂神主改補事(その1)

大凶一元に帰して万機のまつりごとを新たにせられしかば、うれへを含み喜びを懐く人多かりけり。中にも賀茂社の神主職は、神職の中の重職ちようしよくとして、恩補おんふ次第ある事なれば、咎なくしては改動の沙汰もあり難き事なるを、今度尊氏たかうぢきやう貞久さだひさを改めて、基久もとひさに補任され、かれ眉を開く事わづかに二十日を過ぎず、天下また反覆はんふくせしかば、公家の御沙汰として貞久に返付さる。この事今度の改動のみならず、両院の御治世ぢせい替はる毎に転変する事、たなごころかへすが如し。その逆鱗何事の起こりぞと尋ぬれば、この基久に一人の娘あり。養はれて深窓しんさうにありし時より、若紫の匂ひ殊に、初本結はつもとゆひの寝乱れ髪、すゑ如何ならんと、見るに心も迷ひぬべし。




大凶は一元に帰して(北朝初代光厳院は)万機の政を改められたので、愁いを含みあるいはよろこびを懐く人が多くいました。中でも賀茂の社の神主職は、神職の中の重職として、恩補([中世、恩賞として職に任ぜられること])によって決められていましたので、罪なくして改動([職・身分、また方針などを改めること、更迭すること])の沙汰はあり得ませんでしたが、この度尊氏卿(足利尊氏)が貞久(森貞久?)を改めて、基久(森基久)に補任し、基久が眉を開き([心配ごとがなくなって安心する])二十日を過ぎないうちに、天下はまた反覆したので、公家の沙汰として貞久に戻されました。今度の改動ばかりでなく、両院(持明院統=北朝。と大覚寺統=南朝)の治世が替わる毎に転変する様は、まるで掌を反すようでした。その逆鱗の事の起こりですが、基久に娘が一人ありました。養われて深窓([上流階級の女性の、世俗から隔離された環境])の頃より、若紫の匂い優れ、初元結い([裳着後の髪上げ髪])の寝乱れ髪は、末はいかになろうかと、見るに心も迷うほどでした。


続く


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by santalab | 2016-08-21 09:11 | 太平記 | Comments(0)

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