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「太平記」経嶋合戦事(その1)

遠矢を射損じて、敵味方に笑われ憎まれる者、恥をすすがんとや思ひけん。舟一艘いつさうに二百余人取り乗つて、きやうの島へ差し寄せ、同時に礒へ飛び下りて、敵の中へぞ打つて懸かりける。脇屋右衛門うゑもんすけの兵ども、五百余騎にて中にこれを取り籠め、弓手馬手ゆんでめて相付あひついて、縄手をまはしてぞ射たりける。二百余騎の者ども、心はたけしといへども、射手も少なく徒立かちだちなれば、馬武者に駆け悩まされて、遂に一人も残らず討たれにければ、乗り捨つる船は、いたづらに岸打つ浪に漂へり。細河ほそかはきやうの律師これを見給ひて、「続く者のなかりつるゆゑにこそ、若干そくばくの御方をば故なく討たせつれ。いつを期すべき合戦ぞや。下り場のよからんずる所へ船を着けて、馬を追ひ下ろし追ひ下ろし打つて上がれ」と下知される。四国のつはものども、大船七百余艘よさう紺部こんべの浜より上がらんとて、礒に添うてぞ上りける。




遠矢射損じて、敵味方に笑われ馬鹿にされた者は、恥を雪ごうと思ったか、舟一艘に二百余人が取り乗って、経の島(兵庫島)へ差し寄せ、同時に磯へ飛び下りて、敵の中に打って懸かました。脇屋右衛門佐(脇屋義助よしすけ。新田義貞のおとうと)の兵どもが、五百余騎で中にこれを取り籠め、弓手馬手([左右])に付いて、縄手([手綱?])を廻らして矢を射ました。二百余騎の者どもは、心は猛くとも、射手も少なく徒立ちでしたので、馬武者に駆け悩まされて、遂に一人も残らず討たれました、乗り捨てた船は、ただ岸打つ浪に漂うばかりでした。細川卿律師(細川定禅)はこれを見て、「続く者がない故に、若干の味方を無駄に討たせた。いつを期すべき合戦ぞ。下り場のよい所へ船を着けて、馬を追い下ろし追い下ろし打って上がれ」と命じました。四国の兵どもは、大船七百余艘で、紺部浜(神戸浜)より上がろうと、磯に沿って船を上せました。


続く


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by santalab | 2016-09-08 08:58 | 太平記 | Comments(0)

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