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「太平記」新田殿湊河合戦事(その2)

あるひは引つ組んで落ち重なつて、首を捕るもあり、捕らるるもあり。あるひは敵と打ち違へて、同じく馬より落つるもあり。両虎二龍りやうこじりようの戦ひに、いづれも討たるる者多かりければ、両方東西へ引き退きて、人馬の息をぞ休めける。新田左中将さちゆうじやうこれを見給ひて、「新手の兵すでに尽きて戦ひいまだ決せず。これ義貞よしさだみづから当たるべきところなり」とて、二万三千騎を左右に立てて、将軍の三十万騎さんじふまんぎに駆け合はせ、兵刃へいじんを交へて命を鴻毛ごうまうよりもかろくせり。官軍くわんぐん総大将そうだいしやうと、武家の上将軍じやうしやうぐんと、自ら戦ふいくさなれば、射落とさるれども矢を抜く隙なく、組んで下になれども、落ち合つて助くる者なし。ただ子は親を棄てて斬り合ひ、朗等らうどうは主に離れて戦へば、馬の馳せ違ふ声、太刀の鐔音つばおと、いかなる修羅の戦諍とうじやうも、これには過ぎじとをびたたし。




あるいは引っ組んで落ち重なって、首を捕る者もあり、捕られる者もいました。あるいは敵と打ち違えて、同じく馬より落ちる者もいました。両虎二龍の戦い([並はずれた力を持つ者同士が、死力を尽くして勝敗を争うこと])に、いずれも討たれる者が多くいましたので、両方東西へ引き退いて、人馬の息を休めました。新田左中将(新田義貞)はこれを見て、「新手の兵はすでに尽きたが戦いはまだ決着が付かない。ならばこの義貞が自ら当たるほかない」と申して、二万三千騎を左右に立てて、将軍(足利尊氏)の三十万騎に駆け合わせ、兵刃([戦いに用いる刃物])を交えて命を鴻毛([おほとりの羽毛])よりも軽んじて戦いました。官軍の総大将と、武家の上将軍とが、自ら戦う軍でしたので、射落とされるとも矢を抜く隙なく、組んで下になろうとも、落ち合って助ける者はいませんでした。子は親を捨てて斬り合い、朗等([家来])は主と離れて戦いました、馬が馳せ違う声、太刀の鐔音は、いかなる修羅の戦諍(戦争)も、これには過ぎないほど激しいものでした。


続く


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by santalab | 2016-09-10 09:08 | 太平記 | Comments(0)

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