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「太平記」新田殿湊河合戦事(その4)

敵やこれを見知りけん、すなはち取り籠めてこれを討たんとしけるが、その勢ひに僻易して近くはさらに寄らざりけれども、十方より遠矢に射ける矢、雨あられの降るよりもなほ繁し。義貞は薄金うすかねと言ふよろひに、鬼切おにきり鬼丸おにまるとて多田の満仲まんぢゆうより伝はりたる源氏重代ぢゆうだいの太刀を二振り佩かれたりけるを、左右の手に抜き持ちて、上がる矢をば飛び越え、下がる矢には差しうつ伏き、真ん中を指して射る矢をば二振りの太刀を相交あひまじへて、十六じふろくまでぞ切つて落とされける。その有様、例へば四天王してんわう須弥しゆみ四方しはうよして同時に放つ矢を、捷疾鬼せふしつきわしまはつて、いまだその矢の大海に落ち着かぬ先に、四つの矢を取つてかへるらんもかくやと思ゆるばかりなり。小山田をやまだ太郎遥かの山の上よりこれを見て、諸鐙もろあぶみを合はせて馳せまゐりて、己が馬に義貞を乗せ奉て、我が身徒立かちだちになつて追つ懸かる敵を防ぎけるが、敵数多あまたに取り籠められて、つひに討たれにけり。その間に義貞朝臣御方の勢の中へ馳せ入つて、虎口ここうに害を遁れ給ふ。




敵は義貞(新田義貞)に気付いたか、たちまち取り籠めて討とうとしましたが、勢いに僻易([相手の勢いに圧倒されてしりごみすること])して近くには寄らず、十方より遠矢に射る矢は、雨霰が降るよりも激しいものでした。義貞は薄金と言う鎧に、鬼切・鬼丸という多田満仲(源満仲みつなか)より伝わる源氏重代の太刀を二振り佩いていましたが、左右の手に抜き持ち、上に向けた矢を飛び越え、下がる矢には伏せて、真ん中を指して射る矢には二振りの太刀で、十六本までぞ切って落としました。その有様は、例えるならば四天王が、須弥([仏教の宇宙観において、世界の中央にそびえるという山])から四方に向けて同時に放つ矢を、捷疾鬼([足の速い鬼。夜叉の異称])が走り廻って、その矢が大海に落ちる前に、四つの矢を取って返すのもこのようなものだと思えるほどでした。小山田太郎(小山田高家たかいへ)は遥かの山の上よりこれを見て、諸鐙を合わせて馳せ参り、己の馬に義貞を乗せて、我が身は徒立になって追いかける敵を防いでいましたが、多くの敵に取り籠められて、遂に討たれました。その間に義貞朝臣は味方の勢の中へ馳せ入って、虎口([きわめて危険な場所や状態])にして害を遁れました。


続く


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by santalab | 2016-09-12 09:34 | 太平記 | Comments(0)

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