Santa Lab's Blog


「太平記」師冬自害事付諏方五郎事(その2)

播州師冬もろふゆこれを被聞さふらひて、八箇国の勢を被催に、更に一騎も不馳寄。かくては叶ふまじ。さらば左馬のかみ殿を先立てまゐらせて上杉を退治たいぢせんとて、僅かに五百騎を率して、上野へ発向はつかう候ひし路次ろしにて、さりとも二心ろ非じと憑み切つたるつはものども心変はりして、左馬の頭殿を奪ひ奉る間、左馬の頭殿の御後ろ見三戸の七郎しちらうは、その夜同士打ちせられて半死半生に候ひしが、行く方を不知なり候ひぬ。これより上杉にはいよいよ勢加はり、播州師冬には付き従ふ者候はざりし間、一歩いつほも落ちてこなたの様をも聞かばやとて、甲斐かひの国へ落ちて、州沢すざはじやうに被篭候処に、諏方すはの下宮の祝部はふり六千余騎にて打ち寄せ、三日三夜の手負ひ討ち死にその数を不知。敵皆大手へ向かふにより、城中じやうちゆうの勢大略大手にり下つて、防ぎ戦ふ隙を得て、山の案内者後ろへまはつて、かさより落とし懸かる間、八代やしろなにがし一足も引かず討ち死に仕る。城すでに落ちんとし候ふ時、御烏帽子子おんえぼしごに候ひし諏方五郎、初めは祝部にしよくして城を攻め候ひしが、城の弱りたるを見て、「そもそも我執事の烏帽子子にて、父子の契約を致しながら、世挙がつて背けばとて、不義の振る舞ひをばいかが致すべき。曽参そうしんは復車於勝母之郷、孔子は忍渇於盜泉之水といへり。君子は其於不為処名をだにも恐る。いはんや義の違ふ処においてをや」とて、祝部に最後の暇乞うて城中へ入り、かへつて寄せ手を防ぐ事、身命しんめいを惜しまず。




播磨守師冬(高師冬)はこれを聞いて、八箇国の勢を集めましたが、一騎も馳せ来ませんでした。こうなっては敵うまい。ならば左馬頭殿(足利基氏もとうぢ。足利尊氏の四男)を立てて上杉(上杉憲顕のりあき)を退治しようと、わずかに五百騎を率して、上野に発向する道中で、まさか二心はないとと頼み切った兵どもが心変わりして、左馬頭殿を奪い取りました、左馬頭殿の後ろ見の三戸七郎(足利基氏の後見人)は、その夜同士討ちに合い半死半生となって、行方知れずになりました。これより上杉にはますます勢が加わり、播磨守師冬には付き従う者はいなかったので、一歩も落ちて状況を窺うために、甲斐国へ落ちて、州沢城に籠もるところに、諏方下宮祝部が六千余騎で打ち寄せ、三日三夜の手負い討ち死にはその数を知りませんでした。敵は皆大手([敵を表門または正面から攻める兵])に向かったので、城中の勢はほとんど大手に下って、防ぎ戦う隙を得て、山の案内者が後ろへ廻って、笠より落とし懸かったので、八代某は一足も引かず討ち死にしました。城がすでに落ちようとした時、烏帽子子の諏方五郎は、はじ祝部に属して城を攻めていましたが、城が弱ったのを見て、「そもそも我は執事((高師冬もろふゆ)の烏帽子子として、父子の契りを致しながら、世間が背くからといって、どうして不義の振る舞いができようか。曽参(孔子の弟子)は廻車於勝母之閭(曾参が柴刈りに行き留守中に来客が来たものの母は客人をどうもてなせばよいのかわからず、曾参の帰宅を促すために自分の指をかみ続けた。すると、曾参の胸が痛み帰宅し客人に気付き曾参が客人をもてなしたという。[閭]=[村里の入り口にある門])、孔子は忍渇於盜泉之水(孔子はからからに喉が渇いていたが、「盗泉」という泉の名を嫌い、その水を飲まなかったという。どんなに苦しい境遇にあった場合でも、決して悪事には手を出さないというたとえ)という。君子はその名に背く行いでさえ恐れる(?)。申すまでもなく義を違えてどうするのか」と、祝部に最後の暇を乞うて城中へ入り、反対に寄せ手を防ぐこと、身命を惜しみませんでした。


続く


[PR]
by santalab | 2016-09-22 09:23 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」師冬自害事付諏方五郎...      「太平記」師冬自害事付諏方五郎... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
ひょんな事から、このブロ..
by yoshy at 18:50
すみません、日本語の起源..
by 春日 at 21:17
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧