Santa Lab's Blog


「太平記」備中福山合戦事(その9)

赤松が勢案内者なりければ、駆け散らされながら、先々へ馳せ過ぎて、「落人おちうとの通るぞ、打ち留め物の具剥げ」と、近隣傍庄ばうしやうにぞ触れたりける。これによつてその辺二三里が間の野伏のぶしども、二三千人出で合ひてここの山の隠れ、かしこの田のあぜに立ち渡りて、散々に射ける間、備後のかみ若党わかたうども、主を落とさんが為に、進んでは駆け破り引き下がつては討ち死にし、名和なはより阿弥陀が宿の辺まで、十八度まで戦つて落ちける間、打ち残されたる者、今はわづかに主従六騎になりにけり。備後の守ある辻堂つじだうの前にて馬を控へて、若党どもに向かつて申しけるは、「あはれ一族どもだに打ち連れたりせば、播磨の国中をば安く蹴散らして通るべかりつるものを、方々の手分けに向けられて一族一所に居ざりつれば、力なく範長のりなが討たるべき時刻の到来しけるなり。今は遁るべしとも思えねば、最後の念仏心静かに唱へて腹を切らんと思ふぞ。そのほど敵の近付かぬ様に防げ」とて、馬より飛んで下り、辻堂の中へ走り入り、本尊に向かひ手を合はせ念仏高声かうじやうに二三百返がほど唱へて、腹一文字に掻き切つて、その刀を口にくはへて、うつ伏しになつてぞ臥したりける。




赤松(赤松則村のりむら)の勢は案内をよく知る者でしたので、駆け散らされながらも、先々へ馳せ過ぎて、「落人が通るぞ、討ち止め物の具([武具])を剥げ」と、近隣傍庄に触れ回りました。そしてその辺二三里の間の野伏どもが、二三千人出てここの山の隠れ、かしこの田の畷に立ち、散々に矢を射たので、備後守(児島範長のりなが)の若党どもは、主を逃すために、進んでは駆け破り引き下がっては討ち死にし、名和(縄手?現兵庫県姫路市)より阿弥陀宿(現兵庫県高砂市)の辺まで、十八度まで戦って落ちる間に、打ち残された者は、今はわずかに主従六騎になりました。備後守はある辻堂の前で馬を控えて、若党どもに向かって申すには、「ああ一族どもさえ打ち連れておれば、播磨の国中を容易く蹴散らして通るものを、方々の手分けに向けられて一族は一所におらぬ、仕方のないことだがこの範長が討たれる時刻が到来したか。今は遁れようとも思わない、最後の念仏を心静かに唱えて腹を切ろうと思う。それまで敵が近付かぬように防げ」と申して、馬より飛んで下り、辻堂の中へ走り入り、本尊に向かい手を合わせ念仏を高声に二三百返ほど唱えて、腹を一文字に掻き切って、その刀を口に咥えて、うつ伏しに臥しました。


続く


[PR]
by santalab | 2016-09-27 11:01 | 太平記 | Comments(0)

<< 「太平記」備中福山合戦事(その10)      「太平記」師直以下被誅事付仁義... >>

Santa Lab's Blog
by santalab
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
最新のコメント
返歌 草枕…に因んで短歌..
by 井上勇 at 23:54
ただおし出づるままに の..
by SiNa at 21:40
「義経記」の御紹介記事を..
by Magohati38 at 02:04
すばらしいサイト おかげ..
by johsei1129 at 23:54
青き花咲く大地 気高き..
by 北朝鮮の水爆に十神山も激怒 at 02:50
全然現代語訳できてない
by あ at 02:04
 その島根県(旧出雲国東..
by 民俗学者 at 23:34
うーん、松島からまた仙台..
by 五十嵐洋(秋田県大館市) at 00:51
「下野の室の八嶋にて待て..
by 八島 守 at 12:03
ひょんな事から、このブロ..
by yoshy at 18:50
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧