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「太平記」本間孫四郎遠矢事(その1)

新田・足利相挑あひいどんでいまた戦はざるところに、本間孫四郎まごしらう重氏しげうぢ黄瓦毛きがはらげなる馬の太くたくましきに、紅下濃くれなゐすそごの鎧着て、ただ一騎和田の岬の波打際に馬打ち寄せて、沖なる船に向かつて、大音声おんじやうを上げて申しけるは、「将軍筑紫より御上洛しやうらく候へば、定めてとも尾道をのみち傾城けいせいども、多く召し具され候ふらん。その為に珍しき御さかな一つして参らせ候はん。しばらく御待ち候へ」と言ふままに、上差うはざしの鏑矢かぶらやを抜いて、羽の少し広がりけるを鞍の前輪まへわに当て舁きなほし、二所藤ふたどころどうの弓の握太にぎりぶとなるに取り添へ、小松陰こまつかげに馬を打ち寄せて、浪の上なるみさごの、己が影にて魚ををどろかし、飛び下がるほどをぞ待ちたりける。敵はこれを見て、「射はづしたらんは希代きたいの笑ひかな」と目を放たず。御方はこれを見て、「射当てたらんは時に取つての名誉かな」と、機を詰めてぞ守りける。




新田(新田義貞)・足利(足利尊氏)が対峙したまま戦わぬ前に、本間孫四郎重氏(本間重氏)が、黄瓦毛([黄白色で、たてがみ・下肢・ひづめが黒いもの])の太くたくましい馬に、紅下濃の鎧を着て、ただ一騎和田岬(現兵庫県神戸市兵庫区)の波打際に馬を打ち寄せて、沖の船に向かって、大声上げて申すには、「将軍(足利尊氏)が筑紫より上洛されるからには、きっと鞆(現広島県福山市)・尾道(現広島県尾道市)の傾城([美女])どもを、数多く召し具しておられるでござろう。傾城どもに珍しい肴を一つ差し上げましょうぞ。しばらくお待ちくだされ」と言うままに、上差し([えびら胡籙やなぐいなどに差 した征矢そやに差し添えた、二本の鏑矢])の鏑矢を抜いて、羽が少し広がったのを鞍の前輪に当てて直し、二所藤([重籐しげどう弓の一種で、二箇所ずつ籐を寄せて巻いた弓])の弓の握り太に取り添へ、小松陰に馬を打ち寄せて、浪の上の鶚([ミサゴ科ミサゴ属の総称])が、己が影で魚を驚かせ、飛び下がるのを待ちました。敵はこれを見て、「射外せば希代の笑い者となろう」と目を離しませんでした。味方はこれを見て、「射当てれば時の名誉となろう」と、固唾を呑んで見守りました。


続く


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by santalab | 2016-10-08 10:03 | 太平記 | Comments(0)

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