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「太平記」本間孫四郎遠矢事(その3)

その矢六町余りを越えて、将軍の船に並びたる、佐々木の筑前のかみが船を箆中のなか過ぎとほり、屋形に乗つたる兵の鎧の草摺くさずりに裏をかかせてぞ立つたりける。将軍この矢を取り寄せ見給ふに、相摸の国の住人ぢゆうにん本間孫四郎まごしらう重氏しげうぢと、小刀の先にて書きたりける。諸人この矢を取り伝へ見て、「あな恐ろし、如何なる不運の者かこの矢先にまはつて死なんずらん」と、かねて胸をぞ冷やしける。本間孫四郎あふぎを上げて、沖の方をさし招いて、「合戦の最中にて候へば、矢一筋ひとすぢしく存じ候ふ。その矢こなたへ射返してび候へ」とぞ申しけれ。将軍これを聞き給ひて、「御方に誰かこの矢射返しつべき者ある」とかうの武蔵のかみに尋ね給ひければ、師直もろなほ畏つて、「本間が射て候はんずる遠矢を、同じ坪に射返し候はんずる者、坂東勢の中にはあるべしとも存じ候はず。誠にて候ふやらん、佐々木の筑前の守顕信あきのぶこそ、西国一の精兵せいびやうにて候ふなれ。かれを召され仰せ付けられ候へかし」と申しければ、「げにも」とて佐々木をぞ呼ばれける。




その矢は六町(約600m)余りを越えて、将軍(足利尊氏)の船に並んだ、佐々木筑前守(佐々木顕信)の船に飛んで、屋形に乗っていた兵の鎧の草摺([甲冑の胴の裾に垂れ、下半身を防御する部分])を射通しました。将軍がこの矢を取り寄せて見ると、相摸国の住人本間孫四郎重氏(本間重氏)と、小刀の先で彫ってありました。諸人はこの矢を手に手に取って見て、「なんと恐ろしい、いったい誰か不運の者が矢先に廻って死ぬことになろうか」と、胸を冷やしました。本間孫四郎は扇を上げて、沖の方をさし招いて、「合戦の最中なれば、矢の一筋も惜しいもの。その矢をこちらへ射返していただきたい」と申しました。将軍はこれを聞いて、「味方に誰かこの矢を射返すことのできる者がおるか」と高武蔵守(高師直)に訊ねると、師直は畏り、「本間(重氏)が射た遠矢を、同じ坪に射返すことのできる者が、坂東勢の中にいるとも聞いておりません。まことかどうか、佐々木筑前守顕信こそ、西国一の精兵([弓を引く力の強い者])だということです。かれを召されて命じられませ」と申したので、「ならば」と佐々木を呼びました。


続く


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by santalab | 2016-10-10 10:42 | 太平記 | Comments(0)

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